はじめに
保育園には様々な業務がります。
特に保育士の事務作業について、次のように思っている方は多いのではないでしょうか?
- 書く量を減らせないか
- もっと効率的な方法はないか
まず保育士の事務作業は、園児のお昼寝の間でおこなわれる事が多いかと思います。しかし、実際にこの時間帯に終わらせることは非常に難しいと言わざるを得ません。
僕自身、先生たちの業務を間近で見てきましたが、かなりの業務量です。
その中でも特に気になった事務作業が、保育所児童保育要録(以下、「要録」)の作成です。
年度末になると、年長児クラスの担任は通常業務の後、遅くまで保育園に残ったり、持ち帰る等して要録の作成をしています。ここで問題となる点は「作業」が持ち帰らないと完成しない事、そして持ち帰りに関して、担任がある種の「諦め」に近い考えを持っていることです。
以前、ある人から「要録は大切なものだから、残業も持ち帰りも仕方がない」という意見を聞きました。しかし、その裏にある「保育士の負担を増加させている事実」には言及されません。
こうした自己犠牲の上に成り立っている業務をどうにかしたいという想いから、要録に削減について調べてみました。
今回は、この要録の根拠となる法令等について確認していきます。
※注意※
今回のブログ内容はあくまで「業務の改善案」という観点から「要録を削減することは可能なのか?」について書いています。この業務に付随する児童の育ちや発達、保護者支援、小学校等との連携等は視野に入れておりません。
その点をご理解の上、お読みください。
保育所児童保育要録とは
要録とは、年長児の保育園での様子や発達状況、本児への指導方法、留意事項等を記録したものです。そしてご存知の方もいるように、この要録は一人一人個別に作成するため、かなり手間のかかる作業です。
しかも苦労して完成させた要録は、必ずしも読まれているわけではありません。
以前、完成した要録を小学校に届けた時、受け取った先生は要録の存在そのものを知りませんでした。またあるクラスの担任の先生と話した時に「要録は何かあれば読むが、それ以外で読んだことはない」と言っていました。
保育士が苦労して完成させたとしても受け取る側が使用の有無を決めてしまいます。
※勿論、地域差もあるかと思います。
では「要録なんて作らなければいいじゃないか?」と思っても、今度は行政監査の時に要録が監査対象になっています。
読まれるか分からない書類を作成する。しかもそれが監査対象になっている。この矛盾を感じた僕は、要録が本来、必要なものなのか否か調べる事にしました。
要録の根拠となる法令
要録の必要性を調べるにあたり、監査資料を見直しました。
そこには「小学校との連携」と題して次のようにあります。
(1)担当の記録や評価に基づいて、担当の保育士が保育所児童保育要録を作成しているか。
(2)子供の就学に際し、保育所児童保育要録の写しを小学校に送付しているか。
この文言だけでは「要録は作成される前提」であり、作成の義務性については確認できません。事実、今まで当園では疑うことなく要録の作成・提出を行っていました。
そこで、この要録の作成・送付に関する根拠法令を調べてみると、次の2つであることが分かりました。
それでは、1つずつ確認していきましょう。
保育所保育指針第2章4ー(2)
初めに『保育所保育指針』の「第2章4ー(2)」を確認してみます。
保育所保育指針
第2章4ー(2)
(2) 小学校との連携
ア 保育所においては、保育所保育が、小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し、幼児期にふさわしい生活を通じて、創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにすること。
イ 保育所保育において育まれた資質・能力を踏まえ、小学校教育が円滑に行われるよう、小学校教師との意見交換や合同の研究の機会などを設け、第1章の4の(2)に示す「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を共有するなど連携を図り、保育所保育と小学校教育との円滑な接続を図るよう努めること。
ウ 子どもに関する情報共有に関して、保育所に入所している子どもの就学に際し、市町村の支援の下に、子どもの育ちを支えるための資料が保育所から小学校へ送付されるようにすること。
一読して分かるように、「子どもの育ちを支えるための資料」の「送付」については定められていますが、その資料の「具体的な内容」や「作成」までは書かれていません。このように『保育所保育指針』では「要録」自体に明言されていませんでした。
それでは、ここで言う「資料」とは何でしょうか?
保育所保育指針の施行に際しての留意事項について
それについては「保育所保育指針の施行に際しての留意事項について」に書かれています。これは「厚生労働省子ども家庭局保育課長」から「各都道府県民生主管部(局)長、各指定都市・中核市民生主管部(局)長」に宛てた通知です。
保育所保育指針の施行に際しての留意事項について
2.小学校との連携について
保育所においては、保育所保育指針に示すとおり、保育士等が、自らの保育実践の過程を振り返り、子どもの心の育ち、意欲等について理解を深め、専門性の向上及び保育実践の改善に努めることが求められる。また、その内容が小学校(義務教育学校の前期課程及び特別支援学校の小学部を含む。以下同じ。)に適切に引き継がれ、保育所保育において育まれた資質・能力を踏まえて小学校教育が円滑に行われるよう、保育所と小学校との間で「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を共有するなど、小学校との連携を図ることが重要である。
このような認識の下、保育所と小学校との連携を確保するという観点から、保育所から小学校に子どもの育ちを支えるための資料として、従前より保育所児童保育要録が送付されるよう求めているが、保育所保育指針第2章の4(2)「小学校との連携」に示す内容を踏まえ、今般、保育所児童保育要録について、
・養護及び教育が一体的に行われるという保育所保育の特性を踏まえた記載事項
・「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の活用、特別な配慮を要する子どもに関する記載内容等の取扱い上の注意事項
等について見直し(※2)を行った。見直し後の保育所児童保育要録の取扱い等については、以下(1)及び(2)に示すとおりであるので留意されたい。
(※2.見直しの趣旨等については、別添2「保育所児童保育要録の見直し等について(検討の整理)(2018(平成 30)年2月7日保育所児童保育要録の見直し検討会)」参照)※一部抜粋
ここで「要録」と言う言葉が出てきます。
この通知では「保育所保育指針第2章の4(2)」の文章を引用しているので、保育所保育指針で書かれていた「資料」の内容が要録であることが分かります。さらに次のように続きます。
(1)保育所児童保育要録の取扱いについて
ア 記載事項
保育所児童保育要録には、別添1「保育所児童保育要録に記載する事項」に示す事項を記載すること。なお、各市区町村においては、地域の実情等を踏まえ、別紙資料を参考として様式を作成し、管内の保育所に配布すること。
イ 実施時期
本通知を踏まえた保育所児童保育要録の作成は、平成30年度から実施すること。なお、平成 30 年度の保育所児童保育要録の様式を既に用意している場合には、必ずしも新たな様式により保育所児童保育要録を作成する必要はないこと。ウ 取扱い上の注意
(ア) 保育所児童保育要録の作成、送付及び保存については、以下①から③までの取扱いに留意すること。また、各市区町村においては、保育所児童保育要録が小学校に送付されることについて市区町村教育委員会にあらかじめ周知を行うなど、市区町村教育委員会との連携を図ること。
① 保育所児童保育要録は、最終年度の子どもについて作成すること。作成に当たっては、施設長の責任の下、担当の保育士が記載すること。
② 子どもの就学に際して、作成した保育所児童保育要録の抄本又は写しを就学先の小学校の校長に送付すること。
③ 保育所においては、作成した保育所児童保育要録の原本等について、その子どもが小学校を卒業するまでの間保存することが望ましいこと。
このように「要録」の記載事項、実施時期、様式、保存期間等が書かれています。
法令への疑問
以上をまとめると、次のように言えるでしょう。
小学校との連携において、保育園は小学校と「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を共有するなどの連携を図ることが重要であり、その観点から施設長の責任の下、担任は要録を作成しなけばならない。
ここまで書かれると「要録は作成の義務がある」と思ってしまいます。
しかし、この通知文の取扱いが最も重要なポイントとなっています。この通知文の冒頭には次のようにあります。
平成 30 年4月1日より保育所保育指針(平成 29 年厚生労働省告示第 117 号。以下「保育所保育指針」という。)が適用されるが、その適用に際しての留意事項は、下記のとおりであるため、十分御了知の上、貴管内の市区町村、保育関係者等に対して遅滞なく周知し、その運用に遺漏のないよう御配慮願いたい。
なお、本通知は、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 245 条の4第1項の規定に基づく技術的助言である。
また、本通知をもって、「保育所保育指針の施行に際しての留意事項について」(平成 20年3月 28 日付け雇児保発第 0328001 号厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長通知)を廃止する。
この文章と先ほどの差出・宛先を考えると次の事が分かります。
- 「厚生労働省子ども家庭局保育課長」から「各都道府県民生主管部(局)長、各指定都市・中核市民生主管部(局)長」に宛てた通知であること。つまり、国から各施設に宛てた通知ではないこと
- 「本通知は、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 245 条の4第1項の規定に基づく技術的助言である」という文言
「”各施設に向けた通知ではない”うえに、”助言”であるならば、強制力や義務性はないのでは?」
そう思って調べてみる事にしました。
次回はこの「技術的助言」を中心に調べていきます。