前回は「4:開所時間及び一斉休園」について解説・紹介しました。
今回は「5:相談・苦情への対応」を解説・紹介していきます。
今回の「相談・苦情への対応」では、次の2つの項目について確認されます。
(1)苦情解決の仕組みへの取り組みがなされているか。
(苦情解決の仕組み)
相談・苦情解決要領の有無
相談・苦情解決を受けるための窓口の設置の有無
苦情解決に当たって、施設職員以外の関与の有無
(責任者、受付担当者及び第三者委員の選任状況)
苦情解決責任者職氏名の記入
苦情受付担当者職氏名の記入
第三者委員の名称の記入
※「第三者委員の名称」欄は、氏名ではなく評議員、大学教授、弁護士等と記載すること。
(苦情受付の窓口及び苦情可決の手続きの周知方法)の記入
(前年度の相談・苦情受付処理状況)の記入
受付件数の記載
処理件数の記載
未処理件数の記載
第三者委員への報告の有無
内容や対応等の記録の有無
(2)処遇に関し、県及び市町村から指導又は助言を受けた場合は、当該指導又は助言に従って必要な改善を行っているか。
さらにここに関係する書類が、
相談・苦情解決実施要領
苦情の受付簿(報告書)
苦情解決の記録簿
になります。そして対応する根拠法令が、
社会福祉法第82条
児童福祉施設最低基準第14条の3
鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例第21条
H12.6.7付厚生省各部局長通知「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について」※技術的助言のため、ここでは記載しない。
となります。それでは確認していきましょう。
(1)苦情解決の仕組みへの取り組みがなされているか。
ここでは、施設内において苦情解決の仕組みが整備されているかを確認しています。まずは疑問点の確認です。
それでは法令を確認しましょう。
社会福祉法
(社会福祉事業の経営者による苦情の解決)
第82条 社会福祉事業の経営者は、常に、その提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない。
ここで定められているように、社会福祉事業の経営者は利用者からの「苦情の適切な解決」に努める事が義務付けられています。また苦情解決に努める主体を「社会福祉事業の経営者」と定めてあります。
つまり社会福祉事業を実施する事業所では、「経営者」を中心として、苦情・解決に努めなければならないのです。
この点を念頭に置いて、他の法令を確認していきましょう。
児童福祉施設最低基準
(苦情への対応)
第14条の3 児童福祉施設は、その行つた援助に関する入所している者又はその保護者等からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならない。
2 乳児院、児童養護施設、知的障害児施設、知的障害児通園施設、盲ろうあ児施設、肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設は、前項の必要な措置として、苦情の公正な解決を図るために、苦情の解決に当たつて当該児童福祉施設の職員以外の者を関与させなければならない。
3 児童福祉施設は、その行つた援助に関し、当該措置又は助産の実施、母子保護の実施若しくは保育の実施に係る都道府県又は市町村から指導又は助言を受けた場合は、当該指導又は助言に従つて必要な改善を行わなければならない。
4 児童福祉施設は、社会福祉法第83条に規定する運営適正化委員会が行う同法第85条第1項の規定による調査にできる限り協力しなければならない。
ここでは苦情等への対応について、4つの事項に分けて定めています。
それぞれは長いですが簡潔に見ていくと次のようになります。
第1項 苦情等に対応する為の「窓口を設置する等」、苦情解決に向けた具体的な措置を講じる事を定める事項
第2項 苦情等に対応する為に、第1項の他に、外部機関を関与させる事を定める事項
第3項 県や市町村からの行政指導又は助言等を受けた場合の対応に関する事項
第4項 苦情解決の為に運営適正委員会への協力要請を定める事項
繰り返しになりますが、社会福祉事業を実施する事業所では、苦情解決のためには「経営者」が中心となって苦情解決に努めなければなりません。その際に苦情解決に対応するための「窓口」の設置、外部機関の関与等が必要になってきます。この一連の「システム」が、苦情解決のための取り組み等であると言えます。
ここに相談・苦情に対応するための取り組み等を実施する義務性があります。
そしてこれらを踏まえて(1)で確認されている、細かい補足事項についても確認していきます。
(苦情解決の仕組み)
相談・苦情解決要領の有無
→相談・苦情を解決するためのマニュアルの有無を確認しています。
マニュアルの設置自体は、法令では定められていません。ただし対応マニュアルを整備しておいた方が「迅速な対応」、「職員間の対応方法の共有」も出来るので整備しておいた方がベターと言えるでしょう。
相談・苦情解決を受けるための窓口の設置の有無
→児童福祉施設最低基準第14条の3第1項において、苦情解決のための取り組みとして「窓口を設置するなど」とあるように、必ず窓口を設置する必要はありません。窓口に代わるものがあればどれでも構わないと言えます。重要な事は「苦情に迅速かつ適切に対応するため」の「措置」です。
苦情解決に当たって、施設職員以外の関与の有無
→児童福祉施設最低基準第14条の3第2項において、「苦情の公正な解決を図るため」、苦情の解決にあたっては「当該児童福祉施設の職員以外の者」を関与させることが義務として定められています。
(責任者、受付担当者及び第三者委員の選任状況)
苦情解決責任者職氏名の記入
→社会福祉法第82条において、苦情解決は社会福祉施設の経営者を中心に行わなければなりません。言い換えると、社会福祉施設の経営者が苦情解決責任者と言えます。その者の職名と氏名を記入します。
苦情受付担当者職氏名の記入
→苦情受付担当者を定めている場合は職名・氏名を記入します。
第三者委員の名称の記入
→第三者委員を設置している場合は、記入。
(苦情受付の窓口及び苦情可決の手続きの周知方法)の記入
→相談・苦情を受け入れる手続等を周知することは、児童福祉施設最低基準第14条の3第1項において定められている、「苦情に迅速かつ適切に対応するため」の「措置」に該当すると言えます。事前の入園説明会や掲示板等に掲示しておくことが必要となるでしょう。
(前年度の相談・苦情受付処理状況)の記入
→ここでは、前年度に受けた相談・苦情の受理及び処理件数を記載します。当然ですが、受理した件数と処理した件数は一致していなくてはなりません。しかし、場合によっては年度を跨いだ処理になる事もあります。自園の状況に応じて正直に記載しましょう。
受付件数の記載
処理件数の記載
未処理件数の記載
第三者委員への報告の有無
内容や対応等の記録の有無
苦情は園側からすると、出来るだけ回避したいものです。
しかし、どんなにまじめに業務に取り組んでいても、苦情は必ず受けます。
苦情を受けた時は真摯に受け止め、粛々と対処していくことが大切です。
ただし、理不尽な苦情や自己優先の苦情等については、決して屈せずに毅然とした態度で対応しましょう。
(2)処遇に関し、県及び市町村から指導又は助言を受けた場合は、当該指導又は助言に従って必要な改善を行っているか。
ここでは、県及び市町村からの指導や助言を受けた場合、必要な改善等を実施しているかを確認しています。
これは先ほど(1)で確認した「児童福祉法最低基準第14条の3第3項」に、
3 児童福祉施設は、その行つた援助に関し、当該措置又は助産の実施、母子保護の実施若しくは保育の実施に係る都道府県又は市町村から指導又は助言を受けた場合は、当該指導又は助言に従つて必要な改善を行わなければならない。
と定められているように、県や市町村などの行政機関から提供しているサービスについて指導又は助言を受けた場合は、迅速に対応する事が義務付けられています。
この都道府県や市町村からの「指導」とは、何でしょうか?
最も身近な指導とは、行政監査における「指導」だと思います。
ご存知の方も多いかと思いますが、保育施設では年に1回、行政機関による指導監査が実施されます。この指導監査とは、前年度の施設運営や会計処理の適否を、事前に用意した資料に基づいて確認することです。
この時、運営や会計上、不適切な処理や不揃いの書類等が見つかれば、行政から指導を受ける事になります。
しかし、仮に指導や指摘を受けても、次回から改善すればいいので、指導等を受けたと言って必要以上に気に病む必要はありません。大切な事は、同じ指導を何度も受けない事です。
行政指導も万能ではない
ただし注意すべき点もあります。
指導監査において法令に則った指導等であれば、施設側は即座に改善しなくてはなりません。しかし、問題は監査役員の感情や長年の習慣等を根拠にした指導を受ける場合も少なからずあります。
残念ながら、これが原因で無駄な業務が増えてしまうのも事実です。
行政機関からの指導や助言は改善することが前提にありますが、指摘された内容の根拠となっている法令を調べる事も必要になります。
まとめ
今回の「相談・苦情への対応」では、社会福祉施設での苦情等への対応について確認されました。
それらを踏まえて今回の「相談・苦情への対応」の要点は、次の2つになると言えるでしょう
①社会福祉施設等の経営者は、提供しているサービスについて利用者から相談や苦情を受けた場合、経営者を中心として対応・解決に努めなければならない。②行政機関等からの指導や指摘を受けた場合、改善に努めなければならない。
備考
社会福祉法
(運営適正化委員会)
第83条 都道府県の区域内において、福祉サービス利用援助事業の適正な運営を確保するとともに、福祉サービスに関する利用者等からの苦情を適切に解決するため、都道府県社会福祉協議会に、人格が高潔であつて、社会福祉に関する識見を有し、かつ、社会福祉、法律又は医療に関し学識経験を有する者で構成される運営適正化委員会を置くものとする。
社会福祉法
(運営適正化委員会の行う苦情の解決のための相談等)
第85条 運営適正化委員会は、福祉サービスに関する苦情について解決の申出があつたときは、その相談に応じ、申出人に必要な助言をし、当該苦情に係る事情を調査するものとする。
2 運営適正化委員会は、前項の申出人及び当該申出人に対し福祉サービスを提供した者の同意を得て、苦情の解決のあつせんを行うことができる。