前回は「10:職員の健康管理」について解説・紹介しました。
今回は「11:職員研修」を解説・紹介していきます。
「職員研修」について、次の4つの項目に沿って調べられます。
(1)職員に対して、その質の向上のための研修の機会を確保しているか。
(2)職場内での研修に加え、外部研修への参加機会が確保されるよう努めているか。
(3)研修内容が、職員会議等において、他の職員へ周知されているか。また研修記録が整理されているか。
(4)研修結果はどのように活用しているか。
さらにここに関係する書類が、
・研修実施計画
・研修記録、復命書
・職員会議録 等
になります。
そして今回の対応する根拠法令ですが、調べた結果、全ての確認項目に何かしらの形で対応していることが分かりました。ですので以下のような形になります。
(1)、(2)、(3)、(4)・・・
・児童福祉施設最低基準第7条の2第2項
・鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例第9条第2項
・運営基準第3条第4項(特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準第3条第4項)
それでは一つずつ確認していきます。
- (1)職員に対して、その質の向上のための研修の機会を確保しているか。
- (2)職場内での研修に加え、外部研修への参加機会が確保されるよう努めているか。
- (3)研修内容が、職員会議等において、他の職員へ周知されているか。また研修記録が整理されているか。
- 職員会議は、あくまで1つの”手段”でしかない
- (4)研修結果はどのように活用しているか。
- (1)から(4)を調べて生まれた「2つの疑問」
- 研修の企画はだれがするのか?
- 研修への参加義務はあるのか?
- まとめ
- 備考
(1)職員に対して、その質の向上のための研修の機会を確保しているか。
まずは疑問点のおさらいです。
それでは法令を確認しましょう。
児童福祉施設最低基準
(児童福祉施設の職員の知識及び技能の向上等)
第七条の二 児童福祉施設の職員は、常に自己研鑽に励み、法に定めるそれぞれの施設の目的を達成するために必要な知識及び技能の修得、維持及び向上に努めなければならない。
2 児童福祉施設は、職員に対し、その資質の向上のための研修の機会を確保しなければならない。
※鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例も同じ内容となりますので、ここには引用しません。備考に条文を載せておきますので、興味のある方はご確認下さい。
ここで定められているように、児童福祉施設は職員の資質の向上を目的として、研修参加への機会を確保しなければなりません。もちろん「保育所」はこの児童福祉施設に含まれます。
(2)職場内での研修に加え、外部研修への参加機会が確保されるよう努めているか。
先ほど(1)で確認したように、児童福祉施設は職員の資質向上のために、研修への参加機会を確保しなければなりません。ここで気になるのは法令で定める「研修」と、(2)で確認している「外部研修」です。
この2つは違うものなのでしょうか?
この疑問に対して、保育所保育指針では次のようにあります。
第5章 職員の資質向上
第1章から前章までに示された事項を踏まえ、保育所は、質の高い保育を展開するため、絶えず、一人一人の職員についての資質向上及び職員全体の専門性の向上を図るよう努めなければならない。
(1~2)省略
3 職員の研修等
(1) 職場における研修
職員が日々の保育実践を通じて、必要な知識及び技術の修得、維持及び向上を図るとともに、保育の課題等への共通理解や協働性を高め、保育所全体としての保育の質の向上を図っていくためには、日常的に職員同士が主体的に学び合う姿勢と環境が重要であり、職場内での研修の充実が図られなければならない。
(2) 外部研修の活用
各保育所における保育の課題への的確な対応や、保育士等の専門性の向上を図るためには、職場内での研修に加え、関係機関等による研修の活用が有効であることから、必要に応じて、こうした外部研修への参加機会が確保されるよう努めなければならない。
(4)省略
ここで謳われているように、児童副施設が確保すべき研修には「職場における研修」と「外部研修」の2つがある事が分かります。
つまり児童福祉施設では、施設で行う研修への参加の確保に加え、関係機関等による外部の研修への参加機会の確保も求められているのです。ただし求められているだけであって義務ではないことに注意が必要です。
※この義務でない点については、後述する『研修への参加義務はあるのか?』で解説します。
(3)研修内容が、職員会議等において、他の職員へ周知されているか。また研修記録が整理されているか。
ここでは研修を受けた内容について、他の職員への周知とその研修内容の記録の整理について確認されています。
この「他の職員へ周知」について、保育所保育指針には次のようにあります。
保育所保育士針
4 研修の実施体制等
(1省略)
(2) 組織内での研修成果の活用
外部研修に参加する職員は、自らの専門性の向上を図るとともに、保育所における保育の課題を理解し、その解決を実践できる力を身に付けることが重要である。また、研修で得た知識及び技能を他の職員と共有することにより、保育所全体としての保育実践の質及び専門性の向上につなげていくことが求められる。
(3省略)
ここでは受講した研修結果等を「他の職員と共有すること(=周知すること)」で保育所全体の保育士実践の質や専門性の向上を促しています。
しかし確認事項には、研修結果の具体的な共有方法として「職員会議等」とありますが、法令には、具体的共有方法についての定めてはありません。
この共有方法については、どのように考えればいいのでしょうか?
職員会議は、あくまで1つの”手段”でしかない
注意すべきは、研修結果を共有する目的です。
これまでも確認してきたように、児童副施設での研修の目的は「職員の知識や技術の修得、その資質や専門性の向上」や「保育実践の質及び専門性の向上」です。
つまり、研修結果を他の職員と共有する事とは、こうした「保育所や職員全体の資質等の向上」の為の手段と言えるでしょう。
そして資質等の向上の為の一手段として、最も行いやすい方法が「職員会議」なのではないでしょうか。その為、この(3)で確認していると考えます。
ただし繰り返しになりますが、研修結果の具体的な共有方法についての定めはありません。その為、自分たちの施設で職員会議以外に効率のいい共有方法があれば、それを使って共有すればいいのです。
共有方法を職員会議だけにこだわる必要はありません。
またそれに付随して、研修記録の整理について確認しています。
研修の記録についても特に定めはありません。ただし、研修結果を共有する際、受講した研修結果を記録しておいた方が、後から報告漏れや誤認等を防ぐことが出来ます。また研修の内容によっては出張扱いになる場合があります。そうした観点からも研修結果を記録し整理しておいた方がベターと言えるでしょう。
(4)研修結果はどのように活用しているか。
ここでは受講した研修結果の活用方法について確認しています。
実際の保育に取り入れてみたり、保育士の働き方や業務の見直しに活用する等、様々な方法があると思いますが、活用方法については各施設の在り方に依ると思います。
研修を受けたはいいが、そのままにておくことは非常にもったいない事です。
日常の保育や業務に取り入れると、また他の職員との意見交換に使用する等して積極的に活用していきましょう。
(1)から(4)を調べて生まれた「2つの疑問」
ここまで職員研修について調べてきました。
その中で2つの疑問が生まれてきました。それは研修の企画と研修への参加義務です。
法令を調べていくと、研修の機会の確保は義務として定められていますが、「研修自体の企画」と「研修に参加」は義務として定められていないように思われます。
ここではそうした点について、調べていきたいと思います。
研修の企画はだれがするのか?
法令等において、研修を企画する者について明確に定められていません。
研修の企画は一体だれが行うのでしょうか?
ここからは僕自身の考えですが、研修の企画は誰か1人で考えるのではなく、職員全員で考える事だと思っています。
何度も確認している事ですが、研修の目的は「保育所や職員全体の資質等の向上」です。しかし、いきなり「資質等の向上をするには、どんな研修が必要か?」と考えたところで、具体的な研修案が出てくるわけではありません。
そこには「資質等を向上」のためのきっかけが必要となります。
日々の業務の中で、自分が行っている保育に対して様々な課題や疑問が生まれてくると思います。多くの職員は、そうした課題や疑問に対して「この課題に対してどのようにアプローチしていけばいいか?」、「この疑問は、どうすれば解決できるのか?」等と考え、試行錯誤を重ね、実際の保育に取り入れています。
僕は、この課題や疑問を解決しようとする職員の「考え」や「想い」こそが、「資質等の向上」のためのきっかけだと思っています。
つまり職員1人1人が、現場の課題や保育の疑問点等を踏まえて「今の保育には何が必要か。今の自分たちには何が足りないのか。」と主体的に考える事で、現状の課題や保育の疑問点、事務作業の問題点がより明確になります。
そうした課題を解決するための手段として研修を選ぶことで「現在、私たちが抱える保育には様々な課題等がある。こうした課題等に応えるような研修をしてみたい」という、より具体性が実効性の高い研修を企画する事が出来るようになると思います。
※このように実際に自分たちの行いたい研修課題が明確になれば、あとは実際に計画するだけです。
この時、園長先生や主任の先生、もしくは処遇改善等加算Ⅱの専門リーダーなど、ある程度の権限を持った人を研修企画の中心人物に置くと良いでしょう。彼ら彼女らを中心として、研修に日程、準備資料、講師等を決めていく事がスムーズな計画・準備・実行に繋がります。
自分たちで研修を企画して課題を解決できるかもしれませんが、逆に課題が増える場合もあります。しかし、自分たちで考えた研修は、他人が考えた毒にも薬にもならない研修よりもはるかに有意義であり、かつ「資質等の向上」に最も近い手段だと思っています。
研修の企画は、施設で働く職員1人1人の主体性から出発します。
研修を企画する時は、職員全員で意見を出しながら考えるようにしましょう。
研修への参加義務はあるのか?
繰り返しになりますが、法令等では「研修の機会の確保」が義務づけられています。しかし、よく調べてみても「職員の研修参加の義務」等の文言はありません。
つまり、研修への参加自体は、職員の任意という事になります。
ただし、注意したいのはどの法令でも「職員の知識や技術の取得、資質や専門性の向上」の為に、研修会へ参加する事を「努めなければならない」と定めています。
この「努めなければならない」とは、一見すると義務のようにも、任意のようにも見えます。どちらが正しいのでしょうか?
この点について調べてみると、次のようにありました。
『SmartHR Mag「努力義務規定」とは? 罰則の有無や義務規定との違いを解説』
努力義務とは、法律の条文で「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」と規定された義務のことです。
つまり、「努力をすること」が義務付けられています。
努力義務規定に違反したとしても、刑事罰はもちろんのこと、行政罰(過料など)の制裁もありません。努力義務は、当事者の自発的な行為をうながす効果があるに過ぎません。
このサイトは弁護士の方が書いているので、ある程度の根拠はあると思います。
これに依るならば、研修に関する法令には、研修への参加の機会を確保する事のみが定められており、参加自体については各職員の努力義務であり、拘束性を持つものではない、という事です。
言い換えるならば、研修への参加は基本的に参加対象者の任意によって行われるものだと言えるでしょう。
個人的にこれは、良い事だと思っています。
地域によって異なるのでしょうが、鹿児島では行政機関が主催する研修会は、保育所の閉園後に行われる事が多いです。時間にすれば大体午後7時前後に始まり、約2時間ほどの研修が行われます。
正直この時間帯に研修に参加したい職員が果たして何人いるのでしょうか?
もちろん研修の具体的な内容は、最後まで受講しなければ分かりません。
もしかすると自分たちの抱える課題や疑問に答えてくれる研修”かも”知れません。
しかし、受講しないと分からない研修と職員の肉体的精神的負担を考えれば、研修の受講は受講希望者の任意であることは当然だと思います。
研修はあくまで手段です。
職員の知識や資質等の向上という目的達成の為の一手段に過ぎません。
他に何か手段があれば、効率的に目的を達成できる手段の方が断然良いに決まっています。
研修の企画や参加を促す場合は、その点を念頭に置くべきでしょう。
まとめ
「職員研修」では、研修の目的、職員の研修参加への機会の確保、研修結果の共有方法等について確認されました。
それらを踏まえて今回の「職員研修」の要点は、次の4つになると言えるでしょう
①児童福祉施設による研修の目的は、「施設や職員の資質等の向上等」にある②児童福祉施設は、研修の機会を確保しなければならない(義務)③研修を企画するときは、まず現状の課題等について職員全員が主体的に考える事④研修の参加自体は任意
備考
ここでは、先ほど紹介した法令とは別に、職員研修における確認事項の根拠法令となっている法令を紹介します。興味のある方はご覧ください。
鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例
職員の知識及び技能の向上等
第9条 児童福祉施設の職員は、常に自己研さんに励み、法に定めるそれぞれの施設の目的を達成するために必要な知識及び技能の修得、維持及び向上に努めなければならない。
2 児童福祉施設は、職員に対し、その資質の向上のために研修の機会を確保しなければならない。
保育所保育指針
第5章 職員の資質向上
第1章から前章までに示された事項を踏まえ、保育所は、質の高い保育を展開するため、絶えず、一人一人の職員についての資質向上及び職員全体の専門性の向上を図るよう努めなければならない。
1 職員の資質向上に関する基本的事項
(1) 保育所職員に求められる専門性
各職員は、自己評価に基づく課題等を踏まえ、保育所内外の研修等を通じて、保育士・看護師・調理員・栄養士等、それぞれの職務内容に応じた専門性を高めるため、必要な知識及び技術の修得、維持及び向上に努めなければならない。
(2) 保育の質の向上に向けた組織的な取組
保育所においては、保育の内容等に関する自己評価等を通じて把握した、保育の質の向上に向けた課題に組織的に対応するため、保育内容の改善や保育士等の役割分担の見直し等に取り組むとともに、それぞれの職位や職務内容等に応じて、各職員が必要な知識及び技能を身につけられるよう努めなければならない。
2 施設長の責務
(1) 施設長の責務と専門性の向上
施設長は、保育所の役割や社会的責任を遂行するために、法令等を遵守し、保育所を取り巻く社会情勢等を踏まえ、施設長としての専門性等の向上に努め、当該保育所における保育の質及び職員の専門性向上のために必要な環境の確保に努めなければならない。
(2) 職員の研修機会の確保等
施設長は、保育所の全体的な計画や、各職員の研修の必要性等を踏まえて、体系的・計画的な研修機会を確保するとともに、職員の勤務体制の工夫等により、職員が計画的に研修等に参加し、その専門性の向上が図られるよう努めなければならない。
3 職員の研修等
(1) 職場における研修
職員が日々の保育実践を通じて、必要な知識及び技術の修得、維持及び向上を図るとともに、保育の課題等への共通理解や協働性を高め、保育所全体としての保育の質の向上を図っていくためには、日常的に職員同士が主体的に学び合う姿勢と環境が重要であり、職場内での研修の充実が図られなければならない。
(2) 外部研修の活用
各保育所における保育の課題への的確な対応や、保育士等の専門性の向上を図るためには、職場内での研修に加え、関係機関等による研修の活用が有効であることから、必要に応じて、こうした外部研修への参加機会が確保されるよう努めなければならない。
4 研修の実施体制等
(1) 体系的な研修計画の作成
(2) 組織内での研修成果の活用
外部研修に参加する職員は、自らの専門性の向上を図るとともに、保育所における保育の課題を理解し、その解決を実践できる力を身に付けることが重要である。また、研修で得た知識及び技能を他の職員と共有することにより、保育所全体としての保育実践の質及び専門性の向上につなげていくことが求められる。
(3) 研修の実施に関する留意事項
施設長等は保育所全体としての保育実践の質及び専門性の向上のために、研修の受講は特定の職員に偏ることなく行われるよう、配慮する必要がある。また、研修を修了した職員については、その職務内容等において、当該研修の成果等が適切に勘案されることが望ましい。
特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業並びに特定子ども・子育て支援施設等の運営に関する基準(運営基準)
第三条 特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業者(以下「特定教育・保育施設等」という。)は、良質かつ適切であり、かつ、子どもの保護者の経済的負担の軽減について適切に配慮された内容及び水準の特定教育・保育又は特定地域型保育の提供を行うことにより、全ての子どもが健やかに成長するために適切な環境が等しく確保されることを目指すものでなければならない。
(~中略~)
4 特定教育・保育施設等は、当該特定教育・保育施設等を利用する小学校就学前子どもの人権の擁護、虐待の防止等のため、責任者を設置する等必要な体制の整備を行うとともに、その従業者に対し、研修を実施する等の措置を講ずるよう努めなければならない。