裏を見せ 表を見せて 散る紅葉
作者不明
誰の歌かは分かりませんが、舞い散る紅葉に秋の情緒を感じさせてくれる短歌です。
秋は行楽シーズン。
夏の暑さが和らぎ始め、朝晩に涼しさを感じるようになる季節。そんな時は、都会の喧騒を離れ、落ち着いた大人の旅に出かけてみたいものです。しかし保育園勤務時代、この時期は、運動会や芋ほり、秋の遠足などイベントが盛りだくさん。秋の情緒を楽しむ余裕なんて全くありませんでした。
しかし今の僕は比較的自由に時間を使える身。今まで見逃してきた秋を堪能できる。
と言うわけで10月、11月に京都を訪れました。
そこで出会ったのは、春とはまた違った芸・舞妓の世界。そして老舗旅館のおもてなし...
今回の「京都の旅」は、芸事の秋として、情緒あふれる芸舞妓の世界を紹介します。
- 芸術の秋、食欲の秋、京都の秋
- 秋の京都に誘われて
- 秋の京都はどんな感じ?
- 伝統の舞を披露する秋の風物詩「温習会」
- 温習会の印象は?
- 五花街で唯一の秋公演「祇園をどり」
- 『佳辰祝礼五節句』
- 魅了、そして研鑽
- 備考
芸術の秋、食欲の秋、京都の秋
秋の京都は紅葉シーズン。
有名どころで言えば、嵐山や渡月橋から眺める紅葉は非常に有名です。
しかし今回の目的は紅葉狩りではなく、芸・舞妓さんたちの芸事です。
秋になると、祇園甲部の芸・舞妓さん達が普段習っている芸事を披露する「温習会」、そして五花街で唯一の秋公演が行われる祇園東の「祇園をどり」が開催されます。
秋の京都に誘われて
「都をどり」をきっかけに、すっかり芸・舞妓の世界に魅了された僕は、それからというもの暇さえあれば京都の花街や芸・舞妓の世界について調べるようになっていました。
花街の文化やもてなしについて書かれたコラム集を読んだり
舞の先生の半生が書かれた本を読んだり
芸・舞妓さんを題材にした映画を観たり
これまでの人生で、ここまで何かに熱中したことはあったでしょうか。
そんな「推し活」に勤しんでいると、季節はすっかり夏真っ盛り。この時期から、秋の講演に向けたチケット販売が始まります。
ウッキウキで購入した「温習会」と「祇園をどり」のチケット。
しかし「祇園をどり」のチケットは無事購入できましたが、「温習会」のチケットは間違った日の分を購入してしまい、大パニックです。キャンセルも出来ないと言う事で、泣く泣く購入し直すことに。
そんなハプニングがありながらも一日千秋の思いで過ごしつつ、ついに出発の日がやってきました。
秋の京都はどんな感じ?
この時期になると、だんだんと京都も秋の雰囲気を感じられるようになります。
季節感をザックリ説明すると、次のような感じ。
10月 紅葉シーズンはもう少し先 個人的に最も過ごしやすい
〇紅葉
10月の上旬から中旬の間は、まだ木々や葉は色づいていません。下旬から徐々に色づき始めますが、山々を眺めると、緑と枯色の半々といったところでしょうか。
〇気温
朝晩はだいぶ涼しくなってきています。
しかし反対に日中はまだまだ日差しは強く、少し歩くだけで汗ばむことも。汗で身体が冷えないように注意しましょう。
11月 紅葉のベストシーズン ただし寒さ対策は必須
〇紅葉
この時期の上旬から本格的に山々が赤く色付き始めます。個人的には中旬ごろが一番の見ごろだと思います。またこの時期から京都の寺社仏閣では、秋の催しとして「秋の特別夜間拝観」が行われるようにもなります。
〇気温
朝晩は本格的に冬の気温です。
日中、日が差せば暖かな気温ですが、建物の陰や通り抜ける風に冬の寒さを感じます。簡単に羽織れるジャケットなどは用意しておきましょう。
最近は、暖冬のため11月でも日中は暖かい日が続きます。反面、夜は気温が下がるので、寒さ対策は必須。折角の旅行で体調を崩す、なんて事態だけは避けたいところです。
伝統の舞を披露する秋の風物詩「温習会」
「温習会」とは、毎年10月に祇園甲部の芸妓さんと舞妓さんが京舞井上流に伝わる伝統の舞を披露する公演会のことです。
この「温習」には、「おさらい」という意味があります。
祇園甲部の芸妓さん・舞妓さんが日々の稽古の成果を披露し、師匠や先輩、さらにはご贔屓筋から評価してもらう会になるそうで。
特徴は、ほとんどの舞が「京舞井上流」に伝わる舞であるという点にあります。
実に全11の演目があり、1日に6つの演目が披露されます。
温習会の印象は?
「おさらい」という意味合い上、どことなく学校の「発表会」に近い印象を受けました。
しかし、そこは花街の発表会。
舞の披露会といいますが、その舞には魅了させられっぱなしです。
指先の動きから顔の向き、体の動かし方、どれことっても「美しい」の一言です。
ただ題目の背景をしっかり理解していなかったので、その点を理解していればもっと楽しむことが出来たと思います。
舞の予習復習が次の課題です。
そして個人的に観覧に来られていた方も印象的でした。
品のよさそうな初老の男性や、バリバリに活動していそうな経営者っぽい男性。老舗旅館の女将みたいな人や着物に身を包んだ女性など、どことなく「一流」の雰囲気が漂う人ばかり。
さらに観覧に来られた方は、すべての演目を見ているのではなく、途中から観覧に参加している人や、休憩室で馴染みの舞妓さんや芸妓さんと談笑している人もいました。それを遠目で見ながら
(これが粋なのか~)
と思いましたが、それが正しい感情だったのかは謎です。
また、こうした人たちは男女関係なく舞妓さんや芸妓さんと一緒に観覧しているのも印象的でした。指定された席に座って開園を待っている間、また演目と演目の間の休憩時間、そこかしこを芸妓さんや舞妓さんが歩いているもんですから、こっちは感動しっぱなしです。
特に休憩時間、僕が座っている席の横に芸妓さんとご贔屓さんらしい人が座った時は、心臓の鼓動がうるさいくらいに聞こえてきました。
五花街で唯一の秋公演「祇園をどり」
京都の春の風物詩「春のをどり」
これは4月から5月上旬にかけて宮川町、先斗町、祇園甲部、上七軒で行われます。
「祇園をどり」は、昭和27年に『祇園乙部』から名を改めた当時の祇園東新地の芸妓衆が上演したのが始まりと言われています。
今年の題目は「佳辰祝礼五節句」
日本の伝統行事である「五節句」をテーマにした舞が披露されます。
まずは別室でお点前をいただき、ホッと一息。
お土産のお皿を懐にしまい、そのまま指定された席で待つこと数分。
暗転。そして次の瞬間、5人の芸妓さんが現れました。
「祇園をどり」の始まりです。
『佳辰祝礼五節句』
まず「プロローグ」にて、五節句の説明をしたのち「第一景」から「第五景」までを披露。最後は「祇園東小唄」でフィナーレとなります。
五花街全ての「をどり」を観たわけではありませんが、どの花街でもそれぞれの流派があるように、見せ方にも特徴があるのでしょう。例えば今回の「祇園をどり」では、景と景の間に、次景の「解説」が入ったりします。この解説によって次景の背景や意図を知り、より一層をどりを楽しめるように思いました。
そして「をどり」は息を忘れるくらい見とれるものでした。
特に5月の鯉のぼりの由来となった「登竜門」を題材にした「鯉の滝登り」は圧巻の一言でした。鯉に扮したお二人の芸妓さんが、力強くダイナミックに舞を披露します。緩急をつけ舞う姿に「上品さ」と「厳格さ」を感じさせてくれました。
また第四景で披露された「七夕」は、先ほどの「鯉の滝登り」とは打って変わって、落ち着いた優雅な舞でした。芸妓さんがお一人で舞われているいるからでしょうか。静かな舞であり、上品さの中に「艶やかさ」や「儚さ」を感じさせてくれました。
魅了、そして研鑽
「温習会」と「祇園をどり」
その可憐で美しい舞に見とれながらも、その裏で彼女たちがどれ程の研鑽を重ねてきたのかを想像してしまいます。
彼女たちは「仕込みさん」と呼ばれる修業時代から娯楽の一切を排し、日々、舞や笛、太鼓などのお稽古を重ねると聞きます。また同時に花街のしきたりや京ことば、おねえさん方の着付けの手伝いも覚えなくてはなりません。
仕込みさんを卒業して、ようやく「舞妓さん」になれたとしても、そこからは実際のお茶屋さんでの礼儀や客人をもてなす作法等も学ばなければなりません。また「襟替え」して「芸妓さん」になると、今度は今までの置屋さんでの生活から独立し、自分で生活の管理をしなくてはなりません。
そして、そんな中で常に舞などのお稽古を続けていくと言います。
芸事のお稽古は、先生に教えてもらうことになります。
足運び、腰の位置、腕の振り方、顔の向け方、指先、呼吸方法に至るまで体の動きを細かくチェックされ、厳しく指導されると言います。そしてその指導は、時に理不尽さを感じることがあるかもしれません。
しかし芸事を会得するというのは、形を真似るのではなく、その裏に流れる「伝統」や「想い」を理解しなければ、本当の意味で「会得」したことにはならないのではないでしょうか。
芸事の会得には長い時間と、厳しいお稽古の積み重ねが必要になるのだと思います。
だからこそそれを乗り越えた彼女たちの舞などは、見るもの全てを魅了するのではないでしょうか。
備考
今回の「京都の旅」は、秋の芸事をメインにした旅でした。
勿論、その間に老舗旅館のもてなしや朝食に感動したり、気になっていた甘味を食べたり、祇園の小料理屋で名物に舌鼓を打ったり、老舗の酒屋で宵の一時を楽しんだりと、食欲の秋も満喫しました。また機会があれば別の記事で紹介したいと思います。