前回は「2:保育の計画と内容 その③」について解説・紹介しました。
今回は「2:保育の計画と内容 その④」を解説・紹介していきます。
※ここでは計13個の項目に沿って調べられますので、複数回に分けて紹介・解説していきます。
今回は(5)の項目を紹介します。
(5)小学校との連携
ア 小学校教育が円滑に行われるよう、小学校教師との意見交換や合同の研究の機会などを設け、保育所保育と小学校教育との円滑な接続を図るよう努めているか。※連携の内容を記載
イ 担当の記録や評価に基づいて、担当の保育士が保育所児童保育要録を作成しているか。
ウ 子どもの就学に際し、保育所児童保育要録の写しを小学校に送付しているか。
(6)保育の記録
ア 児童表等を整備し、子どもの状況を把握しているか。※把握するための手段等を選択
イ 保育日誌等が整備されているか。※整備している書類等を選択
さらにここに関係する書類が、
・保育所保育児童要録
・職員会議録
・事業計画書
・保育過程
・指導計画
になります。そして対応する根拠法令が、
(5)・・・保育所保育指針第2章4-(2)、保育所保育指針の施行に際しての留意事項について(H30.3.30子保発第0330第2号)
(6)・・・児童福祉施設最低基準第14条、鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例第19条、保育所保育指針第1条3ー(3)ーエ、第3章1-(2)ーイ
となります。それでは一つずつ確認していきます。
(4)小学校との連携
ここでは「小学校との連携」として、3つの観点から確認しています。
ア 小学校教育が円滑に行われるよう、小学校教師との意見交換や合同の研究の機会などを設け、保育所保育と小学校教育との円滑な接続を図るよう努めているか。※連携の内容を記載
ここでは保育園から小学校への進級にあたり、保育園においてどのような対応等を講じているのかを確認しています。
まずは疑問点を確認しましょう。
それでは法令を調べていきましょう。
根拠となる法令は「保育所保育指針」になります。
保育所保育指針
第2章 保育の内容
4 保育の実施に関して留意すべき事項
(2) 小学校との連携
(~中略~)
イ 保育所保育において育まれた資質・能力を踏まえ、小学校教育が円滑に行われるよう、小学校教師との意見交換や合同の研究の機会などを設け、第1章の4の(2)に示す「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を共有するなど連携を図り、保育所保育と小学校教育との円滑な接続を図るよう努めること。
ここで保育園職員と小学校教師が「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を、「意見交換」や「合同の研修」などによって共有して、小学校教育との円滑な接続を図るように記されています。ここに保育園が講ずべき小学校接続の対応等が記されています。
ただし、語尾に「努めること」とあるように、これは「義務」ではなく「努力義務」になります。
努力義務とは?
「努力義務」と聞くと、どこか義務性を含めた言い回しに聞こえますが、実はそうではありません。
『SmartHR Mag』「「努力義務規定」とは? 意味や罰則有無、義務規定との違いを解説」より引用
努力義務とは、法律の条文で「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」と規定された義務のことです。
つまり、「努力をすること」が義務付けられています。
努力義務規定に違反したとしても、刑事罰はもちろんのこと、行政罰(過料など)の制裁もありません。努力義務は、当事者の自発的な行為をうながす効果があるに過ぎません。
このコラムを書いているのは弁護士の方ですので、一定の根拠にはなると思います。
それによると、「努力義務」とは、「努力すること」が義務付けられたものであり、「当事者の自発的な行為をうながす効果があるに」過ぎないとあります。
つまり、あくまで「これくらいは頑張ってくださいね~」的なお願いに近いものであると言えるかもしれません。
また、努力義務に違反しても刑罰等はないとありますが、努力する事が「義務付けられています」とあるように「全く努力しなくていい」という訳ではないでしょう。
つまり個人的な考え方になりますが「努力義務」とは、努力する事が前提となっている事ですが、努力する組織や職場の状況に左右されるものであり、「義務」のように必ず「負担」を負うべきものではない、と言えるでしょう。
(ア)のまとめ
少し話が逸れましたが、(ア)についてまとめます。
小学校への接続において、円滑な接続の観点から保育園は小学校と育って欲しい子どもの姿などを研修等を通じて共有する事が望ましいものであるが、法的な義務性はなく、あくまで努力義務の範疇に留まっている、といえます。
イ 担当の記録や評価に基づいて、担当の保育士が保育所児童保育要録を作成しているか。
ここでは「保育所児童保育要録(以下、「要録」)」の作成について確認しています。
まずは疑問点の確認です。
まずは法令を確認しましょう。
保育所保育指針
第2章 保育の内容
(2) 小学校との連携
ア 保育所においては、保育所保育が、小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し、幼児期にふさわしい生活を通じて、創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにすること。
イ 保育所保育において育まれた資質・能力を踏まえ、小学校教育が円滑に行われるよう、小学校教師との意見交換や合同の研究の機会などを設け、第1章の4の(2)に示す「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を共有するなど連携を図り、保育所保育と小学校教育との円滑な接続を図るよう努めること。
ウ 子どもに関する情報共有に関して、保育所に入所している子どもの就学に際し、市町村の支援の下に、子どもの育ちを支えるための資料が保育所から小学校へ送付されるようにすること。
確認すると分かるように、要録の作成の根拠として明示されている指針の中には「要録」の文字はどこにも見当たりません。つまり指針に「要録」の作成は定められていないのです。
皆さん、ご存知でしたか?
それでは次の法令を確認しましょう。
保育所保育指針の施行に際しての留意事項について(H30.3.30子保発第0330第2号)(以下、「通知」)
2.小学校との連携について
保育所においては、保育所保育指針に示すとおり、保育士等が、自らの保育実践の過程を振り返り、子どもの心の育ち、意欲等について理解を深め、専門性の向上及び保育実践の改善に努めることが求められる。また、その内容が小学校(義務教育学校の前期課程及び特別支援学校の小学部を含む。以下同じ。)に適切に引き継がれ、保育所保育において育まれた資質・能力を踏まえて小学校教育が円滑に行われるよう、保育所と小学校との間で「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を共有するなど、小学校との連携を図ることが重要である。
このような認識の下、保育所と小学校との連携を確保するという観点から、保育所から小学校に子どもの育ちを支えるための資料として、従前より保育所児童保育要録が送付されるよう求めているが、保育所保育指針第2章の4(2)「小学校との連携」に示す内容を踏まえ、今般、保育所児童保育要録について、
・養護及び教育が一体的に行われるという保育所保育の特性を踏まえた記載事項
・「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の活用、特別な配慮を要する子どもに関する記載内容等の取扱い上の注意事項
等について見直し(※2)を行った。見直し後の保育所児童保育要録の取扱い等については、以下(1)及び(2)に示すとおりであるので留意されたい。
(※2.見直しの趣旨等については、別添2「保育所児童保育要録の見直し等について(検討の整理)(2018(平成 30)年2月7日保育所児童保育要録の見直し検討会)」参照)※一部抜粋
ここで「要録」という言葉が出てきます。
読んでみると、先ほど引用した指針の「ウ」に定められる「子どもの育ちを支えるための資料」が「要録」であると記されています。
このように見ると、一見「要録」には作成の義務があるように思われますが、実はそもそもこの「通知」自体に義務性はありません。
この通知の根拠や要録自体の考え方については、以前掲載したブログで紹介しています。
ご興味のある方は下記のリンク(主に『要録 後編』)からご覧ください。
ここでは「要録」の根拠法令のポイントを3つ紹介します。
- 「保育所保育指針」には、「要録」の作成、提出については義務付けられていない。
- 「通知」は、国から「各地方自治体の福祉を担当している部署(=行政機関)」に提出されているものであり、保育園などの福祉施設に向けたものではない。
- 「通知」は、そもそも法的な義務性や拘束力を持っていない。
ウ 子どもの就学に際し、保育所児童保育要録の写しを小学校に送付しているか。
ここでは、子どもの就学に際し、要録の写しを小学校に送付しているかを確認しています。
まずは疑問点のおさらいです。
それでは根拠法令を確認しましょう。
保育所保育指針
第2章 保育の内容
(2) 小学校との連携
(~中略~)
ウ 子どもに関する情報共有に関して、保育所に入所している子どもの就学に際し、市町村の支援の下に、子どもの育ちを支えるための資料が保育所から小学校へ送付されるようにすること。
これは先ほど引用した法令の一部です。
これを読むと分かるように、園児の就学に際し、保育園は就学する園児の「育ちを支える資料」を小学校に送付する事が定められていますが、「写し」については定められていません。
これは「通知」の方に定められています。
通知
ウ 取扱い上の注意
(~中略~)
② 子どもの就学に際して、作成した保育所児童保育要録の抄本又は写しを就学先の小学校の校長に送付すること。
このように、要録の「抄本(=原本の一部を抜粋したもの、概要)」か「写し」を送付する事が定められています。しかし繰り返しになりますが、この通知自体が児童福祉施設に向けたものでもなく、通知自体に義務性等はありません。
仮に、通知を参考にするのであれば、写しを送る方がいいと言えるでしょう。
この点については、各施設で判断しましょう。
(6)保育の記録
ここでは「保育の記録」として、2つの観点から確認しています。
ア 児童表等を整備し、子どもの状況を把握しているか。※把握するための手段等を選択
イ 保育日誌等が整備されているか。※整備している日誌等を選択
ここでは入所している子どもの状況の把握するために整備している帳簿等を確認しています。
まずは疑問点の確認です。
まずは法令の確認です。
児童福祉施設最低基準
(児童福祉施設に備える帳簿)
第十四条 児童福祉施設には、職員、財産、収支及び入所している者の処遇の状況を明らかにする帳簿を整備しておかなければならない。
※「鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例第19条」も同様の内容の為、省略します。
ここで明記されているように、保育所を含む児童福祉施設では、所属している職員や保有している財産などの他に、入所している者の処遇の状況が分かる帳簿を整備することが義務付けられています。
しかし、帳簿の整備は義務付けられていることは分かりましたが、その帳簿が具体的にどんな帳簿であるかは定められていません。
他の法令も確認してみましょう。
保育所保育指針
第1章 総則
3 保育の計画及び評価
(3) 指導計画の展開
エ 保育士等は、子どもの実態や子どもを取り巻く状況の変化などに即して保育の過程を記録するとともに、これらを踏まえ、指導計画に基づく保育の内容の見直しを行い、改善を図ること。
保育所保育指針
第3章 健康及び安全
1 子どもの健康支援
(2) 健康増進
イ 子どもの心身の健康状態や疾病等の把握のために、嘱託医等により定期的に健康診断を行い、その結果を記録し、保育に活用するとともに、保護者が子どもの状態を理解し、日常生活に活用できるようにすること。
先ほどの法令と同じように、保育園において入所している園児の状況や実態に即した保育を記録することは定められています。また園児の「健康状態」や「疾病」等の健康状態については記録する事が定められています。この点から言えば、健康診断書は整備すべき帳簿であると言えます。
それでは、他の帳簿はいったい何を整備すればいいのでしょうか?
これはどんな帳簿が必要なのかと考えるのではなく、関連する「子どもの状況」、つまり園児の実態や園児を取り巻く状況を踏まえたうえで考える必要があると思います。
しかし、園児の実態や園児を取り巻く状況等と言うと、どうにも具体性を欠いている印象がありますが、それは当然でしょう。
園児の実態とは、園児本人のありのままの状態の事です。
例えば、園児の考え方や趣味趣向、特性や特徴などが該当するでしょう。これらは当然1人1人異なっています。また園児を取り巻く状況とは、園児の家族構成や保護者の仕事関係、住居などが該当します。これも園児それぞれによって異なっているいるでしょう。
子どもの状況とは、ある意味、具体的に定める事が出来ないものなのでしょう。
(ア)、(イ)のまとめ
話は逸れましたが(ア)、(イ)についてまとめます。
保育園では入所している園児の状況を把握するために、帳簿を整備しなくてはなりません。しかし、整備すべき帳簿には具体的な名称や定めはありません。ただし、健康診断書は必ず整備しなくてはなりません。
他の整備すべき書類は、「子どもの状況」を踏まえたものを整備しておく必要があります。
まとめ
今回の「保育の計画と内容 その④」では、保育園と小学校の接続における研修会の開催や書類の送付、園児の記録について確認されました。
それらを踏まえて今回の「保育の計画と内容 その④」の要点は、次の3つになると言えるでしょう
①保育園は小学校との円滑な接続のために、意見交換等の研修会を開催する事が望ましい。②保育園は、園児の小学校就学に際し「子どもの育ちを支えるための資料」を送付しなければならない。
次回は、「保育の計画と内容 その⑤」について調べていきます。