前回は「7:非常勤職員」について解説・紹介しました。
今回は「8:給与規程の整備及び給与支給状況」を解説・紹介していきます。
今回は計16個の項目に沿って調べられますので、全3回に分けて解説・紹介していきます。
第1回目の今回は(1)~(8)の項目までを紹介します。
(1)給与規程は整備されているか。
(2)初任給、昇給、昇格等の基準が適正に整備運用されているか。
(3)級別標準及び職務基準が職員の職務実態並びに、責任の度合いに整合しているか。
(4)給与規程に給与表、初任給格付基準(前歴換算基準)、級別標準及び職務基準は適正に定められているか。
(5)年俸制を採用しているか。※「いる」場合、給与規程に基づき行われているか。
(6)給与表の適用に誤りはないか。
(7)職員の定期昇給は給与規程等に基づき行われているか。※「いない」場合、その理由及び今後の対応を記載すること。
(8)特別昇給を行っている場合、給与規程及び初任給・昇給・昇給に関する基準に基づいて行われているか。※「いない」場合、その理由及び今後の対応を記載すること。
さらにここに関係する書類が、
・労働条件通知書
・給与台帳
・各種認定簿
・出勤簿
・雇用契約書等
・事務分掌表
になります。そして対応する根拠法令が、
(1)・・・労働基準法第89条
となります。それでは一つずつ確認していきます。
(1)給与規程は整備されているか。
まずは、疑問点をおさらいします。
それでは法令を確認しましょう。
(作成及び届出の義務)第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
何度も確認している就業規則の整備に関する法令です。
しかし、監査で確認されているのは「給与規程」の整備です。
就業規則の整備を定めている法第89条は、給与規程の根拠法令として正しいのでしょうか?
少し調べてみる事にしました。
「規則」と「規程」
ポイントとなるのは、この「規則」と「規程」の違いです。
まず「規則」について調べてみると次のようにあります。
『広辞苑無料検索大林辞』
(1)行為や手続きなどを行う際の標準となるように定められた事柄。きまり。「―どおりにやる」「―を守る」
(2)法則。秩序。「―正しい」
(3)国会以外の諸機関によって制定される法の一種。法律・命令などとならぶ実定法の形式の一つ。衆議院規則・参議院規則・最高裁判所規則・会計検査院規則・人事院規則などのほか,地方公共団体の長の定める規則などがある。規則は法律に違反することができない。
ここに「規則」は「国会以外の諸機関によって制定される法の一種」であり、「規則は法律に違反する事ができない」とあります。
つまり「規則」とは、法の一種としてその効力が認められているものであり、かつ法律に違反しない限り、一組織が定めることが出来る法(の一種)であると言えます。
それでは次に「規程」にはどんな意味があるのでしょうか?
『広辞苑無料検索大林辞』
(1)特定の目的のために定められた一連の条項の全体をひとまとまりとして呼ぶ語。国会の両院協議会に関する規程など。
(2)官公署などにおける,内部組織・事務執行などの準則。「事務―」
ここに「規程」は「特定の目的のために定められた一連の条項」とあるよう、特定の目的の為に定められたものと言えます。
この二つの意味を踏まて考えると、
- 「規則」は、組織全体の運営に関する事項が定められおり
- 「規程」は、その規則の中の特定の目的について定めたもの
という事が出来るでしょう。
言い換えるならば、「規則」に準じて「規程」を定めることができる、と言えるでしょう。
つまり「賃金(=給与)」関係について、大まかに定めたものが「就業規則」であり、その「就業規則」では定めきれない具体的内容について、詳細に定めたものが「給与規程」であると言えます。
そもそも給与を決定する場合、個人の資質や勤務年数、勤務時間、所在地、家族構成などを考慮する場合があります。それらを考慮したうえで給与額を決定しますが、その際に給与を決定した「根拠となる基準」が必要になります。
※例えば「基本給:勤務年数〇年目職員=〇〇円」、「通勤手当:〇~〇㎞=〇〇円」など、
この「根拠となる基準」をまとめたものが「給与規程」であると言えます。
もし「根拠となる基準」がなければ、どのようにして給与額を決定したのか、不明確なままです。決定者の感情や好き嫌いで決定されたと言われても、潔白を証明しようがありません。そうなれば大きなトラブルに発展してしまいます。
給与の支払いは運営者の義務です。
職員への給与の支払いを公正かつ厳粛に行うためにも、施設において「給与規程」の作成は義務でると言えます。
(2)初任給、昇給、昇格等の基準が適正に整備運用されているか。
ここでは、初任給や昇給等の基準の整備運用について確認されます。
先ほどの法第89条の「賃金」の項目を確認すると次のようにあります。
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
ここで賃金の決定や昇給に関する事項を定める事が、義務として定められています。
先ほどの(1)と合わせて考えると、給与を決定する際は「根拠なる基準」が必要です。年度によって初任給が変わったり、昇給額等が変わったりするのは、運営上、非常に不適切であると言えます。
適正かつ公正な支払のためにも、初任給や昇給等に関する事項を定めておくべきでしょう。
(3)級別標準及び職務基準が職員の職務実態並びに、責任の度合いに整合しているか。
(4)給与規程に給与表、初任給格付基準(前歴換算基準)、級別標準及び職務基準は適正に定められているか。
見慣れない言葉が並んでいるので、まずはその確認から行います。
- 級別標準 各職務の給料表の各等級へ分類する際の具体的な基準となるもの
- 職能基準 その職務の内容、職務に従事する際に必要となる資格や要件など
- 初任給格付基準 新入社員が最初に貰う給与の基準となるもの
- 前歴換算基準 採用前の経歴を給与に反映する際の基準となるもの
大体こんな意味になります。
一読して分かるように、これらは職務や給与等の「基準」となるものです。
つまりここで確認されている事は、従事する職務に必要となる資格の基準やその職務に相応する給与の基準、職員が最初に貰う給与の基準、前職の経歴を現職の給与に反映する際の基準について確認されています。
そしてこうした「基準」は「賃金の決定」等に関する事項なので、給与規程に定めておくことが必要です。
(5)年俸制を採用をしているか。※「いる」の場合、給与規程に基づき行われているか。
年俸制とは、労働者に支払う給与の金額を「1年単位」で決定する給与形態のことです。例えば、個人の仕事の成果や量力などを元に、支払う給与額を決定することが特徴的です。
年俸制の採用の有無とその支給等の基準について確認されます。
年俸制も給与の支払いなので、採用している場合は給与規程への定めが必要になります。ただし、月給制とは違い、成果や能力がもとに算出されるので、成果や能力の「基準」を定める等、月給制とは異なる点に注意が必要です。
(6)給与表の適用に誤りはないか。
(7)職員の定期昇給は給与規程に基づき行われれているか。※「いない」場合、その理由及び今後の対応を記載すること。
(8)特別昇給を行っている場合、給与規程及び初任給・昇格・昇給に関する基準に基づいて行われているか。※「いない」場合、その理由及び今後の対応を記載すること。
ここでは、採用した職員の給与を決定する際に使用する給与表の適正、職員の給与昇給等が給与規程に基づいて行われているかを確認しています。
給与の決定や昇給等については法第89条に定められていますが、注意すべきは、賃金の決定等の際、何を根拠にして決定等を行ったのかです。
基準もなく賃金の決定や昇給を行った場合、園の財務状況を圧迫しかねません。
また職員の間で給与に格差が生まれる原因にもなります。
保育園の適切な運営の為には、賃金の決定等に関する明確な基準が必要になります。
その為、給与規程に賃金の決定等に関する基準を定める事は絶対の義務と言えるでしょう。
まとめ
「給与規程の整備及び給与支給状況 その①」では、給与規程の整備義務、初任給や昇給など賃金の決定に関する「基準」を定めなくてはなりません。
それらを踏まえて今回の「給与規程の整備及び給与支給状況 その①」の要点は、次の2つになると言えるでしょう。
①賃金の決定等には、就業規則の他に給与規程の整備が必要となる。
②賃金の決定等には、必ずその「基準」を給与規程に定めなくてはならない。
次回は「給与規程の整備及び給与支給状況 その②」について調べていきます。
補足
今回は給与に関する事項でしたが、根拠となる法令も1つしかなかったので、今までの様な複雑な解説や紹介にはならなかったように思います。
いくつか気になる点もありましたが確認事項の主旨とは外れると思い、そこまで詳しく解説する事はしませんでした。
しかし、調べてみると意外と興味深い内容だったので、気になった点を補足事項として紹介していきたいと思います。
「昇給」と「昇格」
確認事項(7)、(8)で「定期昇給」や「特別昇給」、「昇格」と書かれています。お恥ずかしい話ですが、違いを説明しろと言われても正確に答えられる自信はありません。そこで調べてみることにしました。
言葉のニュアンスから何となく同じような意味合いかと思っていましたが、実際は全く異なりました。
- 「昇格」とは、会社で自分の仕事の職務資格が上がる事です。例えば、簿記3級しか持っていなかった者が、簿記2級の資格を取得するなどして、職務の評価が高まった際に行われます。
- 「昇給」とは、給与が上がることです。給与が上がるタイミングは様々ですが、日本では勤続年数に応じて毎年安定して給与が上がる昇給が主流となっています。
「資格を取った事で社内での職務評価が高まり(=昇格)、給与が上がった(=昇給)」
と考えれば分かり易いかもしれません。
昇給とは?
それでは、給与が上がるもので「定期昇給」、「特別昇給」とは何でしょうか?
これも調べてみると、いくつか種類がある事が分かりました。
- 定期昇給 毎年、決まった時期に定期的に行われる昇給
- 臨時昇給 業績が良いときなどに臨時で不定期に行われる昇給
- 自動昇給 仕事の能力や実績に関係なく、年齢や勤続年数に応じて定期的に行われる昇給
- 考課昇給 本人の成果や成績に対する評価に応じて行わる昇給
- 普通昇給 仕事の能力の向上など、一般的な理由に応じて行われる昇給
- 特別昇給 特別な実績を上げたり特別な職務に就いたりするなど、特別な理由に応じて行われる昇給
正直に言いますが、「定期昇給」や「自動昇給」など、他にも違いが分からない昇給がいくつかありますが(7)、(8)で確認されている「定期昇給」と「特別昇給」について確認します。
「定期昇給」とは、会社が決めた時期に行われる昇給のことです。
昇給時期は会社によって異なりますが、年一回の場合は4月に行われる昇給が一般的かと思います。では、もう1つの「特別昇給」とは何でしょうか?
これが調べてみると、なかなか出てきませんでした。その中でようやく見つけてきたのが次の法令です。
一般職の職員の給与に関する法律
第8条第6項 職員(指定職俸給表の適用を受ける職員を除く。)の昇給は、人事院規則で定める日に、同日前において人事院規則で定める日以前一年間におけるその者の勤務成績に応じて、行うものとする。この場合において、同日の翌日から昇給を行う日の前日までの間に当該職員が国家公務員法第八十二条の規定による懲戒処分を受けたことその他これに準ずるものとして人事院規則で定める事由に該当したときは、これらの事由を併せて考慮するものとする。
これは国家公務員の給与に関する法令です。
その「一般職員の給与に関する法律」の細則的位置にある「人事院規則九―八」には、特別の場合の昇給として次のようにあります。
人事院規則九―八(初任給、昇格、昇給等の基準)
(特別の場合の昇給)
なにやら物騒ですが、要点だけを抜け出すと、業務成績が良好な職員が、その命を懸けて職務を遂行した場合に行われる昇給が「特別昇給」と言えます。
しかしながら、この法律を保育園の職員に当て嵌めてもいいのか議論の余地があります。