今回は前回に引き続き、「8:給与規程の整備及び給与支給状況」を解説・紹介していきます。
第2回目の今回は(9)~(10)の項目までを紹介します。
(9)給与の口座振込を行っているか。
ア「いる」場合
(ア)この場合、労働組合又は職員の過半数を代表する者との書面による協定はあるか。締結年月日 年 月 日
(イ)各職員から同意書を徴しているか。
(ウ)給与支給明細書は渡しているか。
イ「いない」の場合
(ア)給与台帳に職員の押印はあるか。
(イ)給与支給明細書は渡しているか。
(10)給与からの法定外控除を行っているか。
この場合、労働組合又は職員の過半数を代表とする者との書面による協定があるか。
締結年月日 年 月 日
該当する法定外控除の項目に〇を記入すること。
・親睦会費
・旅行積立金
・職員給食費
・民間社会福祉施設職員退職共済掛金
・その他
さらにここに関係する書類が、
・賃金口座振込に関する協定書
・口座振込同意書
・各口座への振込依頼書
・賃金控除に関する協定書(公立の場合は不要)
になります。そして対応する根拠法令が、
(9)・・・労働基準法第24条、労働基準法施行規則第7条の2、賃金の口座振込等について(平成10年9月10日基発第530号)
となります。それでは一つずつ確認していきます。
(9)給与の口座振込を行っているか。
ここでは「給与の口座振込」について、5つの観点から確認しています。
まずは疑問点をおさらいしましょう。
それでは法令を確認しましょう。
(賃金の支払)第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
ここでは労働者への賃金の支払いについて定められています。
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通貨(=現金の事)での支払い
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直接(=手渡し)の支払い
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全額の支払い(=分割払い等は不可)
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賃金の支払いは、毎月1回以上行う(=1回以上であれば何回の支払いでも可)
-
賃金の支払いは、特定の日の支払い(=毎月15日など)
このように賃金の支払いでは、原則として通貨での支払いや直接の支払い等、5つの点が定められています。
ただし、法令にも定められているように、労働協約等に別段の定めがある場合には、通貨以外のもので支払うことができます。他にも労働組合等と書面による協定がある場合、賃金の一部から特定の費用について控除して支払う事も出来ます。
※「控除」については、後ほど解説していきます。
それでは、確認事項の中で確認される給与の口座振込の実施の有無に関する根拠は、どこに記載されているのでしょうか?
それが次の「労働基準法施行規則第7条の2」に定められています。
労働基準法施行規則
第七条の二 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み
ここで労働者へ賃金を支払う場合、口座振込による支払が可能であることが定められます。ただしその場合、「労働者の同意を得た場合」とあるように、労働者の協定書(および同意書)が必要になります。
それでは以上の点から、確認事項の内容について確認していきます。
確認事項では2つの点に着目して確認しています。
- 給与の口座振込を行っている場合
- 給与の口座振込を行っていない場合
まず「①給与の口座振込を行っている場合」について確認していきます。
(ア)この場合、労働組合又は職員の過半数を代表する者との書面による協定はあるか。
(イ)各職員から同意書を徴しているか。
(ウ)給与支給明細書は渡しているか。
(ア)給与台帳に職員の押印はあるか。
しかし、根拠となる法令を確認しても、押印の義務については定められていません。
結論から言いますと、賃金台帳への押印義務はありません。
ポイントは「何のための押印か?」という点です。
考えるにこれは、労働者が自分に支払われた給与の額が正しい額ものか、賃金台帳を見比べて確認する為に押印する事だと思います。
しかしその場合、給与支払明細書が証拠書類となりますので、押印の必要はありません。
他にも、もしかすると何か押印が必要になる場合があるのかと思い、労働基準監督署に確認しましたが、帰ってきた返答が先ほどの結論でした。
ですので、もし賃金台帳に押印をしている場合、義務は無い事を覚えておきましょう。
(イ)給与支払明細書は渡しているか。
これは、先ほどの(ウ)と重複しますので、省略します。
(10)給与からの法定外控除を行っているか。
ここでは給与支給の際、法定控除とは別に法定外控除を行っている場合に、いくつかの事項を確認されます。
そもそも控除には2種類あります。
この「法定控除」とは、法令上、給与から控除する事が定められているものです。
反対に「法定外控除」とは、会社と労働者の代表との間で協定を締結する事で給与から控除できるようになるものです。これは法第24条に定められています。
ここから分かるように、給与から法定外控除を行う場合、必ず労働組合等との書面による協定が必要になります。(賃金の支払)
まとめ
「給与規程の整備及び給与支給状況 その②」では、給与支払いの際の注意点、またそれに付属する関係書類の整備が義務となります。
それらを踏まえて今回の「給与規程の整備及び給与支給状況 その②」の要点は、次の2つになると言えるでしょう。
①給与支払いの際、口座振込の場合は、必ず使用者と労働者間で協定を締結する。さらに各労働者の同意書が必要になる。
②法定外控除を行う場合、必ず使用者と労働者間で協定を締結する。
次回は「給与規程の整備及び給与支給状況 その③」について調べていきます。
備考
ここでは、給与を支給する際に作成・交付しなければならない支給明細書の根拠となる法令を紹介します。
(給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)
(保険料の源泉控除)第百六十七条 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。3 事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
(保険料の源泉控除)第八十四条 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。2 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。3 事業主は、前二項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
(賃金からの控除)
第三十二条 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、前条第一項又は第二項の規定による被保険者の負担すべき額に相当する額を当該被保険者に支払う賃金から控除することができる。この場合において、事業主は、労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない。2 第八条第一項又は第二項の規定により事業主とされる元請負人は、前条第一項の規定によるその使用する労働者以外の被保険者の負担すべき額に相当する額の賃金からの控除を、当該被保険者を使用する下請負人に委託することができる。3 第一項の規定は、前項の規定により下請負人が委託を受けた場合について準用する。