前回は「2:人事・労務管理体制」について解説・紹介しました。
今回は「3:労働時間」を解説・紹介していきます。
※今回から「疑問点」を入れて、それに対する回答として根拠法令を確認する形式としていきます。
「労働時間」について、次の3つの項目に沿って調べられます。
(1)1日8時間、週40時間労働が守られているか。(常時使用する労働者数10人未満の事業所あっては、44時間)
(2)変形労働時間制を採用しているか。
※採用している場合
ア 1か月単位・1年単位・その他
イ 就業規則に明記しているか。
ウ 労使協定を締結し、労働基準監督署へ届けているか。(1か月単位の変形労働時間制については、就業規則への定めでも可)
(3)勤務時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は60分の休憩時間を与えているか。
さらにここに関係する書類が、
・勤務表
・変形労働時間制に関する協定書
・時間外・休日労働に関する協定書
になります。そして対応する根拠法令が、
(1)・・・・・労働基準法第32条、労働基準法施行規則第25条の2、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
(2)・・・・・労働基準法第32条の2、第32条の4
(3)・・・・・労働基準法第34条
となります。それでは一つずつ確認していきます。
- (1)1日8時間、週40時間労働が守られているか。(常時使用する労働者数10人未満の事業所あっては、44時間)
- (2)変形労働時間制を採用しているか。
- (3)勤務時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は60分の休憩時間を与えているか。
- まとめ
- 備考
(1)1日8時間、週40時間労働が守られているか。(常時使用する労働者数10人未満の事業所あっては、44時間)
ここでは、1日と週の労働時間について調べられます。
まずは疑問点をおさらいします。
それでは法令を確認します。
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
ここでは労働時間が1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはならないと定められています。
労働基準法施行規則
第二十五条の二 使用者は、法別表第一第八号、第十号(映画の製作の事業を除く。)、第十三号及び第十四号に掲げる事業のうち常時十人未満の労働者を使用するものについては、法第三十二条の規定にかかわらず、一週間について四十四時間、一日について八時間まで労働させることができる。
ここでは労働時間の特例について定められています。
労働基準法にもあるように、労働時間は1週間40時間、1日8時間が原則義務となります。しかしこの法令では特定の事業において、常時使用する労働者が10名以下の場合のみ、この法令を根拠として1週間44時間、1日8時間の労働をさせる事ができます。
※ちなみに法令にある4つの「特定の事業」の一つに「社会福祉施設」があります。最後の備考に4つの事業を載せておきますので、興味のある方はご確認ください。
それでは、次の根拠法令を調べます。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
これは使用者が講ずべき、また尊守すべき労働時間の把握に関するガイドラインです。近年、労働基準法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じています。こうした問題解決の為に、使用者に労働時間の適正な把握をさせるための具体的な処置方法が記載されています。(※ホームページで閲覧可能です。)
ここで対応する条文等を引用しないのは、ガイドライン全てが対応するからです。
このガイドラインですが、まずこれに従わなくてはならない義務性について確認します。といっても、このガイドラインの中の「適用の範囲 」において次のように書かれていました。
本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。また、本ガイドラインに基づき使用者が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者を除く全ての者であること。なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。
ここでこのガイドラインン「対象事業場」は「労働時間に係る規定が適用される全ての事業場」とあるように、保育園等の福祉施設への適用を義務づけています。
そしてこのガイドラインでは、主に次の6つの措置について定められています。
ここで重要な事は「1:労働時間の考え方」です。
このガイドラインでは「労働時間」が、次のように定義づけられています。
労働時間の考え方
使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たります。
2.労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます。3.たとえば、次のような時間は、労働時間に該当します。
① 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
前提として「使用者の指示」により「労働者が業務を行う時間」が「労働時間」となります。そして、その「労働時間」は「労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではない」という点に注意が必要です。ここでは具体的に、業務に必要な準備行為や後始末、待機時間、研修受講時間も労働時間に含まれると定めています。
使用者も労働者も、労働条件や施設の規則が優先されると思いがちなのでしょう、それを歪曲して理解した使用者が違法な長時間労働を命じ、さらに給与に反映されないという問題が後を絶ちません。
だからこそ、労働時間の基準を規則等に定めるのではなく「使用者の指示」に定めたのだと思います。
「私たちが思っている労働時間」、「実際の労働時間」、「法令に定められる労働時間」が一致しているか確認する必要があります。
(1)のまとめ
(1)についてまとめると、労働時間の1日8時間、週40時間は、労働基準法第32条に定められる義務となります。この時間内で仕事の準備や片づけ等も行わなくてはなりません。ただし、労働基準施行規則第25条の2にあるように、特定の業種や人数の場合は、週44時間まで労働させることが出来ます。ただし1日8時間を超えることは原則できません。
(2)変形労働時間制を採用しているか。
ここでは変形労働時間制の採用に際し、3つの観点から確認しています。
まずは疑問点をおさらいします。
それでは法令を確認します。
第三十二条の二 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。② 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
分かりにくいですが、これは1ヵ月単位の変形労働時間制について定められています。
変形労働時間制とは、労働時間を月単位・年単位で調整することで、繁忙期等により勤務時間が増加しても時間外労働としての取扱いを不要とする労働時間制度です。この1ヵ月の変形労働時間制を導入する場合、「労働組合」や「労働者代表との書面協定書」、または「就業規則等」への記載が義務付けられています。また同様に協定書や規則は行政官庁に届け出る事が義務付けられています。
これを採用する事で、例えば1ヵ月の内、ある特定の週の労働時間40時間を超えた労働をさせることが出来ます。ただし、法令の8時間を超えた場合は残業代を支払わなくてはなりません。
第三十二条の四 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号(1週間?)の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。一 この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲二 対象期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月を超え一年以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)三 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間をいう。第三項において同じ。)四 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を一箇月以上の期間ごとに区分することとした場合においては、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間(以下この条において「最初の期間」という。)における労働日及び当該労働日ごとの労働時間並びに当該最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間)五 その他厚生労働省令で定める事項② 使用者は、前項の協定で同項第四号の区分をし当該区分による各期間のうち最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間を定めたときは、当該各期間の初日の少なくとも三十日前に、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働日数を超えない範囲内において当該各期間における労働日及び当該総労働時間を超えない範囲内において当該各期間における労働日ごとの労働時間を定めなければならない。③ 厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見を聴いて、厚生労働省令で、対象期間における労働日数の限度並びに一日及び一週間の労働時間の限度並びに対象期間(第一項の協定で特定期間として定められた期間を除く。)及び同項の協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。④ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。
ここでは「1年単位の変形労働時間制」について定められます。
これは先ほどの1ヵ月単位の変形労働時間制の期間を1年間に定めた場合の規則です。採用する場合、労働組合や労働者の代表との書面による協定が必要になります。また分かりにくいですが④には書かれる内容は、就業規則等への記載および行政官庁への提出の義務性が書かれています。
これらを踏まえた上で、(2)の確認事項を一つずつ根拠法令に照らしながら、確認していきます。
変形労働時間制を採用しているか。 ア 1ヵ月単位・1年単位・その他
もし変形労働時間制を採用している場合、導入している制度を答えましょう。
答えるだけなので、根拠法令の確認はありません。
変形労働時間制を採用しているか。 イ 就業規則に明記しているか
変形労働時間制を採用している場合、就業規則又はそれに準じた規則への記載の義務があります。
変形労働時間制を採用しているか。 ウ 労使協定を締結し、労働基準監督署へ届けているか(1か月単位の変形労働時間制については、就業規則への定めでも可)
変形労働時間制を採用する場合、必ず「労働組合」もしくは「労働者の過半数を代表する者」と「書面による協定」を結ばなくてなりません。そしてこの書類が「変形労働時間制に関する協定書」になります。また締結した協定書は、労働基準監督署への提出が義務付けられています。ここに協定書の締結・整備、届け出の義務があります。
(3)勤務時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は60分の休憩時間を与えているか。
ここでは職員に勤務時間に応じた休憩時間を与えているかを確認されます。
まずは疑問点をおさらいします。
それでは法令を確認します。
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。② 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
法令にもあるように、勤務時間が6時間を超える職員には45分以上、8時間を超えるもには60分の休憩を与えなくてはなりません。ここに休憩時間を与えることの義務があります。また休憩に際し、勤務の「途中」であり、「一斉」に、「自由」に与えなくてはありません。
保育園において、職員が「一斉」に休憩を取得した場合、子どもたちから目を話すことになります。そんな時は労働組合等と書面による協定書を締結することで、一斉ではなく、順番に休憩時間を確保する事で休憩時間を確保することが出来ます。なおこの書面は行政官庁等への提出は必要ありません。
まとめ
「労働時間」では、1日、1週間の原則労働時間や特例措置、また変形労働時間制採用における諸注意点について確認しました。その要点は次の4つにあると言えるでしょう。
①労働時間は原則1日8時間、1週間40時間。
②特例措置の適用により、1日、1週間の労働時間を超えて労働することは可能。
③特例措置等を採用する際は、協定の締結、規則等への記載、提出が義務となる。
④6時間の労働には45分以上、8時間の労働には60分の休憩時間を与える事が義務となる。
次回は「休日」、「時間外労働」について調べていきます。
備考
労働基準法施行規則第25条の2における特定の「事業」とは?
◇第8号(商業)◇
物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
→物品の販売、サービスの提供を目的とする事業、不動産業、理容・美容業などが該当
◇第10号(映画・演劇業)◇
映画の映写、演劇その他興行の事業(映画の製作の事業を除く)
→映画関連の事業、興業をする事業が該当
◇第13号(保健衛生業)◇
病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
→病院、医院、診療所、保育所、児童養護施設、児童福祉施設、老人福祉施設等が該当
◇第14号(接客娯楽業)◇
旅館、料理店、飲食店、接客または娯楽場の事業
→接待を伴う飲食店などの接客業、ボーリング場、ゴルフ場、保養所等が該当