事務員の保育園日誌|複雑な保育園業務の改善方法を

保育園で働く事務員の日常や役立つスキル、業務の改善について紹介します!

【保育園業務解説!】監査資料から考える保育園における業務の義務性について  職員処遇「2:人事・労務管理体制」

前回は「1:就業規則の整備・運用」について解説・紹介しました。

今回は「2:人事・労務管理体制」を解説・紹介していきます。

 

人事・労務管理体制」について、次の6つの項目に沿って調べられます。

(1)職員の採用に当たり、書類審査・面接等の先行が適正に行われているか。

(2)試用期間を設けているか。

(3)職員の人事発令に当たり、伺い書等関係書類が整備され、事例の交付若しくは雇用契約が締結されているか。

(4)労働条件を明示し、書面を交付しているか。

(5)出勤簿(又はタイムカード)は出勤の事実どおり適正に作成されているか。

(6)定年制はあるか。

 ある場合、定年の年齢は何歳か。

 高年齢者の雇用確保措置は取られているか。

 ①65歳以上まので定年年齢の引き上げ

 ②継続雇用制度の導入

 ③定年制の廃止

 継続雇用手続きを導入している場合、雇用延長手続きは、適正であるか。

さらに、ここに関係する書類が、

  • 辞令
  • 雇用契約
  • 採用伺い
  • 理事会議事録
  • 辞令原本
  • 辞令綴
  • 退職届の整備
  • 就業規則
  • 勤務表

になります。そして対応する根拠法令が、

(1)(2)・・記載なし

(3)・・・・・・社会福祉法人定款例第24条

(4)・・労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条

(5)・・・・・・記載なし

(6)・・・・・高齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条、9条

となります。それでは一つずつ確認していきます。

 

 

(1)職員の採用に当たり、書類審査・面接等の先行が適正に行われているか。

(2)試用期間を設けているか。

ここでは職員を採用する際の審査等の適格性と採用後の試用期間の有無について確認されます。根拠法令の記載がないのは、職員の採用審査は各施設の判断に拠るものであるからだと考えられます。

 

(3)職員の人事発令に当たり、伺い書等関係書類が整備され、辞令の交付若しくは雇用契約が締結されているか。

ここでは職員への人事発令に伴う関係書類の整備交付又は雇用契約の締結等について確認されます。まずは法令を確認します。

社会福祉法人定款例

第24条 理事会は、次の職務を行う。ただし、日常の業務として理事会が定めるものについては理事長が専決し、これを理事会に報告する。
(1)この法人の業務執行の決定
(2)理事の職務の執行の監督
(3)理事長及び業務執行理事の選定及び解職

(備考)

(1)日常の業務として理事会が定めるもの」のとしては、次のような業務がある。なお、これらは例示であって、法人運営に重大な影響があるものを除き、これら以外の業務であっても理事会において定めることは差し支えないこと。
① 「施設長等の任免その他重要な人事」を除く職員の任免
(注)理事長が専決できる人事の範囲については、法人としての判断により決定することが必要であるので、理事会があらかじめ法人の定款細則等に規定しておくこと。② 職員の日常の労務管理・福利厚生に関すること

(以下省略)

(URL:16teikan.pdf (city.kurume.fukuoka.jp

社会福祉法人定款例」とは、社会福祉法人の定款のとして国の方針を示したものです。ここでは理事会の職務と理事長の報告の義務について書かれています。

注意すべきは「日常の業務として理事会が定めるもの」です。

 

「(備考)」以下には、この「日常の業務として~」として「①「設長等の任免その他重要な人事」を除く職員の任免(以下「」)」と「職員の日常の労務管理・福利厚生に関すること(「以下「)」等があります。

 

つまり定款内で「日常の業務」として「」「」等を定めていれば、理事長が先決して、理事会に報告義務が発生します。ここに理事会で職員の採用等に関する報告及び、採用に関する書類の整備・交付等の義務性があります。

 

しかし義務性があるとは書きましたが、上記法令の「日常の業務として理事会が定めるもの」としては」とあるように「①②」あくまでも「」です。

 

そもそも記載する義務性はあるのでしょうか。

 

そこでまずは「定款」について調べてみました。

まず大前提として、社会福祉法人を設立するものは定款を設置しなければなりません。それは社会福祉法第31条に記載されます。

 

社会福祉

(申請)
第三十一条 社会福祉法人を設立しようとする者は、定款をもつて少なくとも次に掲げる事項を定め、厚生労働省令で定める手続に従い、当該定款について所轄庁の認可を受けなければならない。
 目的
 名称
 社会福祉事業の種類
 事務所の所在地
 評議員及び評議員会に関する事項
 役員(理事及び監事をいう。以下この条、次節第二款、第六章第八節、第九章及び第十章において同じ。)の定数その他役員に関する事項
 理事会に関する事項
 会計監査人を置く場合には、これに関する事項
 資産に関する事項
 会計に関する事項
十一 公益事業を行う場合には、その種類
十二 収益事業を行う場合には、その種類
十三 解散に関する事項
十四 定款の変更に関する事項
十五 公告の方法

社会福祉法人を設立するものは定款を定め、また「十五」までの内容を必ず定款内に記載しなければなりません。この中に「①」と「②」に該当するものはありません。

 

次に「定款例」を確認してみます。定款例冒頭に次のような文言があります。

1.定款例について
○ 各法人の定款に記載されることが一般的に多いと思われる事項について、定款の定め方の一例を記載している。
○ 各法人の定款の記載内容については、当該定款例の文言に拘束されるものではないが、定款において定めることが必要な事項が入っているか、その内容が法令に沿ったものであることが必要である。
2.記載事項の種類
必要的記載事項直線)→ 必ず定款に記載しなければならない事項であり、その一つでも記載が欠けると、定款の効力が生じない事項(法第 31 条第 1 項各号に掲げる
事項等) ※ 内容については、法令に沿ったものであればよく、当該定款例の文言に拘束されるものではないこと。
相対的記載事項点線) → 必要的記載事項と異なり、記載がなくても定款の効力に影響はないが、法令上、定款の定めがなければその効力を生じない事項
任意的記載事項→法令に違反しない範囲で任意に記載することができる事項

「定款例」に記載される内容は「必要的記載事項」、「相対的記載事項」、「任意的記載事項」の3つに分類されます。その区別は、定款例の文言に「直線アンダーライン」が引かれていれば必要的記載事項、「点線アンダーライン」が引かれていれば「相対的記載事項」、「アンダーラインなし」は「任意的記載事項」となります。そして「①「施設長等の任免その他重要な人事」を除く職員の任免」と「②職員の日常の労務管理・福利厚生に関すること」には「アンダーラインなし」ですので、「任意的記載事項」に該当します。

 

以上の事を踏まえ「」と「」について考えると、これらを日常の業務として定める必要はないと言えるでしょう。

 

そうすると次のように考える人が出てくると思います。

定款や定款細則に記載する必要がないのなら、職員の採用等に関して必要となる雇用締結や関係書類の提示・交付等は必要ないじゃんw

 

事実、僕もここまで調べてそう思っていました。

しかしそれが間違いであることが次の(4)を確認すると明らかになります。

 

(4)労働条件を明示し、書面を交付しているか。

ここでは労働者との雇用関係を結ぶ際に、労働者に労働条件を明示し、その内容を書面で交付しているかを確認しています。まずは法令を確認します。

 

労働基準法

(労働条件の明示)

第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないこの場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

ここでは採用した労働者に各種労働条件を明示する事が義務付けられています。またその内容が厚生労働省令に定められていれば、該当する方法で明示しなくてはありません。では、明示しなければならない労働条件とは何でしょうか?

 

それが次の「労働基準法施行規則第5条」に書かれています。

労働基準法施行規則

第5条 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第1号の2に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第4号の2から第11号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
 労働契約の期間に関する事項
1の2 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
1の3 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
 始業及び終業の時刻所定労働時間を超える労働の有無休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定計算及び支払の方法賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
4の2 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金に関する事項
 労働者に負担させるべき食費作業用品その他に関する事項
 安全及び衛生に関する事項
 職業訓練に関する事項
 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
10 表彰及び制裁に関する事項
11 休職に関する事項
 使用者は、法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、第1項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
 ファクシミリを利用してする送信の方法
 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

先ほどの労働基準法第15条において謳われる、労働者に対し明示しなければならない労働条件具体的内容書面等の交付方法義務性について記されています。

 

つまり、先ほどの(3)と合わせて考えれば、職員採用のにおいて、仮に定款や定款細則内に職員の人事や労務管理等が記載されていない場合、理事会への報告義務は無いにしても、労働条件の明示及び、書面の交付の義務性はあるのです。

 

(5)出勤簿(又はタイムカード)は出勤の事実どおり適正に作成されているか。

ここでは、出勤簿の作成方法について確認しています。根拠法令の記載はありませんが、出勤簿は労働者の給与等の基準になります。適正に作成しなくてはなりません。

※当園では今まで手書きで出勤簿を作成していましたが、面倒なのでタイムカードに変更しました。結果、出勤簿の管理は驚くほど楽になりました。また付随する書類を一つ無くせたので、タイムカードに変更した事は良かったと思います。

 

(6)定年制はあるか。

ここでは「定年制」について、3つの観点から確認しています。

まずは根拠法令を確認します。

高齢者等の雇用の安定等に関する法律

(定年を定める場合の年齢)

第八条 事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。

ここでは定年を定める場合、年齢は60歳以下に定める事は出来ないとされています。つまりに、60歳以上が定年年齢となると言えるでしょう。
 
ただし、条文にもあるように厚生労働省令で定める、高年齢者では従事することが困難な業務については、定年齢を引き下げることが出来ます。それでは次の根拠法令を確認します。

(高年齢者雇用確保措置)

第九条 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれか講じなければならない。

 当該定年の引上げ

 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入

 当該定年の定めの廃止

 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項及び第十条の二第一項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。

 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

 第六条第三項及び第四項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。

少し混乱するので、要点を次に纏めてみました。特に1)が重要となります。

(要約)高年齢者雇用確保措置

1)定年を60歳に定めている事業主が講じなければならない3つの定めについて。

2)特関係の事業主との間で高齢者の雇用継続が行われた場合、必要となる契約が締結されているか。

3)高年齢者雇用確保措置に関する指針を定めているか。

4)第6条第3項「厚生労働大臣は、高年齢者等職業安定対策基本方針を定める際に、関係行政機関の長と協議するとともに、労働政策審議会の意見を聴いているか」また第4項「厚生労働大臣は、高年齢者等職業安定対策基本方針を定めたときは、その概要を公表」しているか。

これらを踏まえた上で、(6)の確認事項を一つずつ根拠法令に照らしながら、確認していきます。

 

ア ある場合、定年の年齢は何歳か。

もし定年を導入している場合、第8条に書かれているように「高年齢者が従事することが困難」な業務である場合を除き、定年の年齢60歳以上に設定する義務があります。
 

イ 高年齢者の雇用確保措置は取られているか。①65歳までの定年年齢の引き上げ②継続雇用制度の導入③定年制の廃止

定年制を導入している場合、第9条第1項に書かれいるように、高齢者の安定した雇用を確保する観点から「当該定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」、「当該定年の定めの廃止3つ対策の内、1つを講じる義務があります。
 

ウ 継続雇用手続きを導入している場合、雇用延長手続きは、適正であるか。

先ほどの、定年制を導入し、かつ継続雇用制度を導入している場合に関係しています。これは定年後も、雇用者が勤務を希望する場合、雇用延長の手続きが適正に行われているかを確認しています。どういった契約になるか分かりませんが、再度契約を結ぶことになると考えられますので、ここでは「労働基準法第15条」及び「労働基準法施行規則第5条」に従って、労働条件の提示、交付しなければなりません。つまり、この二つの法令に謳われる義務に従っている事が、手続きの適正を測る基準になると言えるでしょう。
 

まとめ

人事・労務管理体制」では、職員の採用や採用に伴う労働条件の明示、労働条件の書面の交付、定年制における諸注意点について確認されました。その要点は次の2つにあると言えるでしょう。
:職員を採用する時は、労働条件を明示し、その労働条件を書面等で交付しなければならない。
定年制を導入している場合、定年の年齢雇用確保措置継続雇用手続きに注意しなくてはならない。
 

次回は「労働時間」について調べていきます。