アナログの勤怠管理
業務改善の内、改善しやすい業務の一つが職員の勤怠管理です。
もう少し具体的に言うと「職員の出退勤をタイムカードにすること」です。
これまで当園では、出退勤時間の記録は「手書き」と「押印」で行っていました。
ところで、この「手書き」と「押印」の作業ですが、業務全体から見ると、ほんの些細な手間でしかありません。
しかし、些細な手間ほど後回しになる事が多いのが現実です。
この記事を読んでいる皆さんにも身に覚えがありませんか?
「夏休みの宿題を溜め込んだ為、最終日に徹夜するはめになった」
「部屋の掃除を怠っていたので、来客時の掃除がより大変になった」
毎日、少しずつ処理すべきところ、後でまとめて処理しようとしても必要以上に手間が掛かるだけです。
出退勤時間の記録も同じで、毎日処理していれば些細な手間でしかありませんが、1ヶ月も処理を怠れば、その後の後始末に膨大な時間と労力を要します。
かくいう私もこの処理を怠り、大変な目に遭いました。そこで思った事があります。
「この出退勤時間を記録する方法、どうにか楽に出来ないか?」
結果的から言いますと、職員の出退勤時間の記録は、簡単に簡略化する事が出来ます。また付随する関係書類を廃止する事も出来ます。
今回は、職員の出退勤時間の記録方法を改善するためにおこなった、具体的な方法や手順、改善後の変化について紹介します。
・改善前
出退勤時間記録 → 「時間の手書き」と「出勤証明印の押印」
超過勤務命令簿 → 「勤務時間を超過した時の記録をつける帳簿」
・改善後
出退勤時間記録 → 手書きと押印の廃止。タイムカードを導入
超過勤務命令簿 → 廃止。タイムカードで併用可能。
特に「超過勤務命令簿」の廃止は画期的なものだったと思います。
改善するために
「出退勤時間を記録する手間を改善する」
今回の業務改善を行うにあたり初めに調べたもの
それは「法令」です。
以前のブログにも書きましたが、業務によっては法令等で義務として定められているものも多く、それを確認しないと、改善したは良いが法令違反になる恐れがあります。
特に出退勤の時間は、給与にも関わってくることですので、慎重にならなくてはなりません。
しかし、いざ出退勤時間の記録方法等について法令で調べようにも、どのように調べればいいのでしょうか?
その方法はいたって簡単です。「市・県行政監査資料」を活用することです。
監査資料の活用方法
この監査資料は次のような内容になります。
これは「機密保持」について書かれています。
「主眼事項」→「監査対象」「着眼点」→「機密保持の意義」「自己評価」→「機密保持を遵守しているか」「チェックポイント」→「機密保持遵守の具体的方法」「関係資料」→「具体的方法の証拠書類」「根拠法令」→「機密保持を遵守しなくてはならない根拠」
簡単に紹介しましたが、ここで重要なポイントは「根拠法令」です。
法人・施設の監査はこうした監査資料を元に調査されます。
施設は、監査資料に沿った運営をしていれば問題ありません。つまり法人・施設の運営に必要な最低限の法令は、監査資料に記載されているといっても過言ではありません。
例えば「機密保持」を改善したい時は、「チェックポイント」に書かれている「秘密保持に関する定めを雇用契約や就業規則に盛り込む」という文言や「関係資料」に書かれている「就業規則等、研修記録、個人情報の提供に係る同意書等が必要である」と言った文言が、「根拠」となる「法令」に書かれているかを調べます。
※根拠法令の内容を調べる時はネットを使えば簡単に出てきます。
もし法令に「秘密保持に関する定めを雇用契約や就業規則に盛り込む」や「就業規則等、研修記録、個人情報の提供に係る同意書等が必要である」と言った文言が書かれていなければ、極端な話、雇用契約書や就業規則、同意書などを用意する必要はありません。
※「機密保持を守らなくてもいい」という事ではありません。
このようにして業務改善には、必要となる書類や規程が「根拠法令に記載されているか?」という点が重要になってきます。
出退勤の改善
このようにして出退勤時間の記録を改善しようと行動を始めましたが、以外にも早く改善方法が見つかりました。
・始業・終業時刻の確認・記録
使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
また、出退勤時間の記録方法として、
・始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
(ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
(イ)タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
とあります。今までは手書きの記録しか認められないと思っていたので、この資料は目から鱗でした。そして同時に、無知は多くの無駄を生むことを痛感しました。
早速、タイムカードを導入する為に必要となる機材を調べ始めましたが、その中で一つの疑問が出てきました
「タイムカードで出退勤時間を正確に記録できるんだったら、超過勤務命令簿って必要なのか?」
超過勤務命令簿の廃止
超過勤務命令簿とは「残業内容と残業時間を記録する帳簿」です。
先ほども書きましたが、タイムカードを導入すれば下記のように、残業時間も自動で記録されるので、私はこの超過勤務命令簿の必要性を疑い始めました。
残業時間(超過勤務時間)の求め方(退勤時間ー出勤時間)ー勤務時間-休憩時間=残業時間
そこで使用したのが、先ほどの監査資料です。
そこに記載されている「超過勤務命令簿」が必要とされる「根拠法令」について監査資料では次の5つが書かれていました。
少し長いですが、一つ一つ見ていきましょう。
労働基準法第34条(休憩)
労働基準法第35条(休日)
1:使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。
2:前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。
労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)
1:使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。
2:厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。
3:第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。
4:行政官庁は、第2項の基準に関し、第1項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1:使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2:前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3:使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
労働基準法施行規則第20条
1:法第33条又は法第36条第1項の規定によつて延長した労働時間が午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、第19条第1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の5割以上(その時間の労働のうち、1箇月について60時間を超える労働時間の延長に係るものについては、7割5分以上)の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。2:法第33条又は法第36条第1項の規定による休日の労働時間が午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、前条第1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の6割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
以上が、「超過勤務命令簿」が必要となる「根拠法令」です。
結論から言いますと、これらの法令の中に「超過勤務命令簿なる帳簿が必要」という文言はどこにありません。
さらに疑問を持った私は、県庁の「指導監査係」に、次の内容を確認しました。
- 監査資料の中の「超過勤務命令簿」が必要となる「根拠法令」を調べたが、その法令の中に「超過勤務命令簿なる帳簿を整備しなくてはならない」等の文言が見当たらない。必要となる根拠法令はどこにあるのか?
- 超過勤務命令簿は用意しなくてもいいのか?
これに対し、対応した指導監査職員は返答に困っていました。
推察するに、監査員もこの事実を知らなかったのでしょう。最も重要な超過勤務命令簿の必要性についても明確な返答は得られませんでした。
これは好機だと判断した私は、早速、園長先生にこれまでの経緯を説明しました。
そして超過勤務命令簿について県庁が明確な答えを示さない以上、自分たちで方針を決める必要があることを説明し、遂に「出勤簿」と「超過勤務命令簿」の廃止が決まりました。
※しかし勤務を超過した理由は記録しておく必要がりますので、PC上で管理しています。
まとめ
今回の業務改善によって、出退勤の記録方法を改善するにあたって、手間と付随する書類を削減する事が出来ました。
もちろん、法令を調べるのは非常に面倒で手間のかかる作業です。
しかし、細かく調べていくと、実は業務に義務性が無い場合もあります。
「業務を改善するために、まず何をすればいいのか?」
業務の改善の際に、何をすればいいのか分からない方は、一度、法令から調べてみる事をおススメします。
もしかすると思わぬ業務の簡略化・削減に繋がるかもしれません。
改善の為に導入した物
◇業務改善までにかかった期間◇
・約2週間
→出退勤の記録方法について調べる(事務員作業、1日で完了)
→超過勤務命令簿の必要性について法令を調べる(事務員作業、1日で完了)
→タイムカード導入に必要な機材の発注(事務員作業、3日前後で完了)
→到着した機材の設定(事務員作業、1日で完了)
→テストを行う(1週間程度、不具合の確認、微調整)
◇導入したもの◇
→置き型タブレット(約2万円)
→勤怠管理用ソフト(約3千円)
→ICカードリーダー(約5千円)
→各職員用ICカード(約1万円)
※導入した機材一覧