意外と楽しい「絵本」
保育園で働いていると、子供向けの遊びやおもちゃに触れる機会が数多くあります。
そして当園で最も触れる機会が多いものが「絵本」です。
保育園では、それぞれのクラスの年齢に合わせた絵本を準備、保管をしています。
こうした絵本には子供向けに多種多様なものがありますが、調べてみると意外にも大人も楽しめるような絵本が数多くあることに気が付きました。
そこで今回は少し趣旨を変えて、僕自身が購入して面白かった絵本を紹介したいと思います。
『ジス・イズ・シリーズ』
著:ミロスラフ・サセック 訳:松浦弥太郎
この2年、新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は大きく変化しました。マスクの着用や手の消毒、人との距離を保つなど、今までの生活からは考えられないようなことばかりを求められています。
僕自身、こうした変化に加え最も辛かったのは、旅行に出かけられなくなった事です。以前は数ヵ月に1度、県外に小旅行に出かけたり、夏は必ず休暇をとって京都で過ごしていました。しかしコロナの影響で、この2年ほどは地元から出ることすら出来ません。
こうした旅行へ行けない苛立ちと、コロナへの鬱憤が溜まっている時に見つけた本が「ジス・イズ・シリーズ」です。
まるで旅日記
このシリーズは、筆者が旅をした世界中の国々を描いたものです。
この絵本の第一印象は「旅日記を絵本にした」というものでした。
というのも、この絵本にはしっかりとしたストーリー性があるわけではなく、むしろ著者から見た、国の街並みや歴史、文化、そこで暮らす人々の生活を中心に描いているからです。
そしてその絵にも注目です。
絵というよりも、レトロアートの様な印象を受けます。
不思議なのは50年以上前に描かれた絵であるにも関わらず、そこに一切の古臭さは感じられません。むしろどこか新しく、それでいてノスタルジックな雰囲気を感じさてくれます。
他にも、ヴェニス、パリ、ロンドン等、様々な国を描いているので気になった国の絵本から読んでいくのもおススメです。
気軽に出かけられない今だからこそ、親子で一緒に楽しく、それとも一人でゆっくりと絵本で旅をしてみませんか?
『トムテ』
著:ヴィクトール・リードベリ 訳:山本 清子
「あなたの一番好きな絵本は何ですか?」
そう聞かれた時、皆さんは何と答えますか。
誰にでも一つや二つ、好きな絵本があると思います。
僕の場合、真っ先に答えるのがこの「トムテ」です。
静かで幻想的で
この「トムテ」とは、北欧のおとぎ話に出てくる妖精で、農家の守護神とされています。
そして、この絵本にも具体的なストーリーがあるわけではありません。
夜、皆が寝静まった頃、トムテがたった一人で、ある家(農家)の家族やそこに暮らす家畜を見守っている物語です。その為、農家の生活や文化の紹介など動的な展開はなく、淡々と静かに話が進んでいきます。
登場人物もトムテ1人だけですので、人によっては非常に物寂しい印象を受けるかもしれません。しかし、絵本に使用されている詩や絵の雰囲気も相まって「物寂しさ」ではなく「幻想的な静けさ」を感じさせてくれます。
眠れいな夜、ゆっくり過ごしたい夜におすすめの絵本です。
『義経と弁慶』
著:谷 信介 絵:赤坂 三好
歴史に名を遺した英雄たち。
彼らの活躍を描いた伝記や小説は、いつ読んでも心が躍ります。
そんな中、今なお根強い人気を誇る源氏の英雄「源義経」と忠臣「武蔵坊弁慶」の活躍を描いた絵本が、この「義経と弁慶」です。
悲劇の英雄とその忠臣
この絵本は題目にもあるように、源氏の若武者であり後に平家を滅亡に追い込んだ立役者の一人、源義経とその配下である武蔵坊弁慶の活躍を描いた絵本です。
自身の出自を知り、平家打倒のために昼はお寺で手伝いをする傍ら、夜は鞍馬山の天狗による修行に明け暮れます。
この義経のそばに常に従っていたのが、武蔵坊弁慶という僧兵でした。
五条大橋での運命的な出会いから、数々の戦いを経て、彼らは主従を超えた固い絆で結ばれていきました。そしてそれは義経最後の地である衣川での悲劇まで続くものでした。
こうした二人の活躍と絆を物語るエピソードは数多くあります。
一の谷の戦いで見せた「鵯越の逆落とし」や、後に歌舞伎の演目にもなった「船弁慶」、「安宅の関」のエピソード等々。それを分かりやすく丁寧に説明し、絵巻物風に描いている所がこの絵本の見所です。また当時の言葉や地名に注釈をつけているのもポイントです。
英雄とその忠臣の活躍に心躍らせ、最後の悲壮さに心打たれる一冊です。
『越後から大江山へ 酒呑童子-絵巻-』
著:山田現阿
古今東西、日本には様々な物語があります。
その中でも、鬼が出てくる物語は数も多いのではないでしょうか。
この「酒呑童子」の物語もその一つです。
酒呑童子の「物語」を二つの視点から
こちらは絵本であり解説書でもある、そうした2つの面をもつ本です。
平安時代、大江山を拠点として京で暴れ回った鬼の頭目がいました。
その名を「酒呑童子」と言いました。
困り果てた帝は、当時、弓取りの名人であって源頼光という武士とその部下たちに酒呑童子討伐を命じます。
これが世に言う「大江山の鬼退治」です。
実はこの本、豆まきの由来について調べている時にたまたま見つけた本でした。
元々購入する予定は無かったのですが、何となく名前程度しか知らなかったので、せっかくの機会だろうと思い購入してみましたが、読んでみると非常にユニークな本でした。
と言うのも、この本で使用される絵は、新潟県国上寺で保管されている「酒呑童子絵巻」がそのまま使用されているからです。まさに「絵巻物」です。
その絵を使用しながら物語が進んでいきますが、この本は物語だけではなく「酒呑童子」のモデルとなった人物の解説まで書かれてあります。それを読むことによって酒呑童子を巡る一連の物語は、単なる鬼退治の物語ではない事が分かります。
絵本として読むことも出来れば、歴史書の解説書としても読むこと出来る。まさに大人が楽しむ「絵本」と言えるのではないでしょうか?
『太陽へとぶ矢』
著:ジェラルド・マクダーモット 訳:神宮 輝夫
「詳しくは覚えていないけど、この映画のこのセリフは覚えている。この本のこの展開は印象に残っている。」
そんな経験はありませんか?
それはその作品に、何か特別な感情を抱いていた証拠なのかもしれません。
僕にとって「太陽へとぶ矢」は、そんなどこか忘れられない印象を与えてくれた本です。
自らの出自を探す旅へ
物語のはじまりは、太陽の神様が自分の力を1本の矢に変え、地上に打ち放つという何とも破天荒な展開から始まります。
この矢に当たった一人の少女は、神様の子を身ごもり、やがて一人の男の子が生まれてきます。この本は、その男の子が自分の父親を捜す旅に出る物語です。
この物語はインディアンに伝わる伝承をもとに描かれた絵本です。
特徴は、表紙にも描かれている絵にあります。ビビットカラーをふんだんに使い、見る人に忘れられない印象を与えます。描かれ方もどこか壁画ポップ風なので、まるで壁画の神話の一部を絵本として読んでいるような印象を与えます。
物語の内容としても難解な部分はありませんので、子どもへの読み聞かせにも、ひとつのアートとしても楽しむ事ができる絵本です。
おわりに
「大人も楽しめる」というコンセプトのもと、おススメする5つの絵本を紹介しました。
ここで紹介した絵本に共通するのは、描かれる「絵」にあります。
子供向けのような可愛らしさや柔らかさではなく、ある種の「芸術性」を感じられる絵本を中心に紹介してみました。
そもそも絵本には子供向けなイメージがありますが、決して子供だけの読み物ではありません。大人でも、時にその絵に魅了され、時にその言葉に心を動かされます。大人になった今だからこそ、改めて絵本の持つ意味を知ることが出来るのではないでしょうか?
「絵本は私を、過ぎ去った過去にも、まだ見ぬ未来にも連れていく」
ある詩人の言葉を紹介して、今回は終わりにしたいと思います。