前回は「2:保育の計画と内容 その④」について解説・紹介しました。
今回は「2:保育の計画と内容 その⑤」を解説・紹介していきます。
※ここでは計13個の項目に沿って調べられますので、複数回に分けて紹介・解説していきます。
今回は(7)の項目を紹介します。
(7)子どもの権利擁護、虐待への対応
ア 子どもの保育において、差別的な取扱いをしていないか。
イ 子どもに対し、虐待その他子どもの心身に有害な影響を与える行為をしていないか。
ウ 日頃から子供の心身の状態(特に不自然な傷や火傷など)を観察し、虐待等の発見に努めているか。
エ 虐待が疑われる場合の対処方法は、職員に周知されているか。
オ 児童の権利擁護(虐待、ネグレクト等)に関する取り組み及び研修がなされているか。※取り組みがなされている場合【研修の開催時期・研修内容・講師名・参加人数を記載】 取り組みがなされていない場合【研修開催の予定の有無・研修等を実施しない理由】
そして対応する根拠法令ですが、全ての法令が何かしらの形で対応しています。そのため次のような形になります。
(7)・・・児童福祉施設最低基準第5条第1項、第9条、第9条2
鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例第6条第1項、第11条、第12条
保育所保育指針第3章1ー(1)ーウ
児童虐待の防止等に関する法律第5条、第6条
児童養護施設等に対する児童の権利擁護に関する指導の徹底について(H11.10.22児家第60号)
運営基準第3条4
それでは確認していきましょう。
(7)子どもの権利擁護、虐待への対応
ここでは「子どもの権利擁護、虐待への対応」として、5つの観点から確認しています。
ア 子どもの保育において、差別的な取扱いをしていないか。
イ 子どもに対し、虐待その他子どもの心身に有害な影響を与える行為をしていないか。
ここでは保育における差別的扱いの有無、また虐待の有無に関して確認しています。
疑問点等もありませんが、そもそも「虐待」等について法令には、どのように定められているのでしょうか。
児童福祉施設最低基準
(児童福祉施設の一般原則)
第五条 児童福祉施設は、入所している者の人権に十分配慮するとともに、一人一人の人格を尊重して、その運営を行わなければならない。
(入所した者を平等に取り扱う原則)
第九条 児童福祉施設においては、入所している者の国籍、信条、社会的身分又は入所に要する費用を負担するか否かによつて、差別的取扱いをしてはならない。
(虐待等の禁止)
第九条の二 児童福祉施設の職員は、入所中の児童に対し、法第三十三条の十各号に掲げる行為その他当該児童の心身に有害な影響を与える行為をしてはならない。
※「鹿児島県児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定める条例第6条第1項、第11条、第12条」も同様の内容の為、省略します。
法令において、児童福祉施設及び施設の職員は、入所している者の人権、人格、また国籍や信条等に配慮して運営する事が原則として定められています。
つまり施設運営の根幹部分に、人権や虐待防止等を定めていると言えます。
近年、全国的に虐待事件は増加傾向にある様です。
また、子どもを守るはずの保育所職員による虐待事件も目にするようになりました。
こうした事件は決してテレビの向こう側だけの出来事ではないと思います。
いつ何時、自園で起きないとは言えません。
こうした時代だからこそ、職員一人一人は、児童福祉施設の運営の根幹に、こうした「人権擁護」の精神がある事を、今一度、覚えておくべきでしょう。
ウ 日頃から子供の心身の状態(特に不自然な傷や火傷など)を観察し、虐待等の発見に努めているか。
エ 虐待が疑われる場合の対処方法は、職員に周知されているか。
ここでは、観察による虐待等の早期発見や虐待が疑われる場合の対処手段の周知について確認しています。
まずは法令を確認しましょう。
保育所保育指針
第3章 健康及び安全
1 子どもの健康支援
(1)子どもの健康状態並びに発育及び発達状態の把握
ウ 子どもの心身の状態等を観察し、不適切な養育の兆候が見られる場合には、市町村や関係機関と連携し、児童福祉法第25条に基づき、適切な対応を図ること。また、虐待が疑われる場合には、速やかに市町村又は児童相談所に通告し、適切な対応を図ること。
ここで「不適切な養育」及び「虐待」の疑いがある場合の対応が定められています。
まず改めて「不適切な養育」と「虐待」について調べてみたいと思います。
◇不適切な養育◇
- 相手にしない・・・スマホやタブレットを与えて放っておく、気分や忙しさを理由に相手にしない等
- 共感しない・・・子どもの「痛い」、「美味しい」等の感想に共感しない等
- 限界を超えた努力の強要・・・子供が嫌がっている習い事などをさせる等
- 両親の不和・・・子どもの前で夫婦喧嘩をする等
※著者調べ
◇虐待◇
- 身体的虐待・・・殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する等
- 性的虐待・・・子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする等
- ネグレクト・・・家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない等
- 心理的虐待・・・言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う等
調べてみて、「虐待」については研修会や報道などで一定のイメージを持っていましたが、「不適切な養育」については、意図せずに子育てや子どもと接する中で行ったことがあるのではないかと思いました。
つまり、この「不適切な養育」を受けているかは、意識して子供を確認していても非常に分かり辛いものかと思います。だからこそ大切な事は、日々の子どもたちの様子から、その「兆候」等を見逃さないようにすることなのでしょう。
それでは、「不適切な養育」や「虐待」の「兆候」とは、一体どのようなものでしょうか?
不適切な養育や虐待の兆候とは?
法令では「不適切な養育の兆候が見られる場合」や「虐待が疑われる場合」とありましたが、そうした一種の「きっかけ」とは、一体どのようなものでしょうか。
- 身体的兆候・・・脳の前帯状回が萎縮することによって、集中力の欠如や意思決定が弱くなる場合がある。また暴力のストレスから自分を守るため脳が防衛反応を起こし、転んでけがをしても、泣いたり痛みに対して鈍感になりやすい 等
- 心身的兆候・・・自尊心や自己肯定感が低くなり、他者とのコミュニケーションがうまくとれなくなったりする 等
他にも、両親間のDVや過度な夫婦げんかの姿、性行為を見続けると、脳の視覚野が萎縮し、他人の気持ちを察するのが苦手になり、コミュニケーションがとれなくなる。
※著者調べ
日常の保育の中で、こうした「きっかけ」を見つけるのは、非常に難しい事かもしれません。しかし、こうした兆候に気付く1つの重要なポイントは「不自然さ」にあると言えます。
例えば転んだ時、通常であれば、痛みで泣きそうな声を出したりする場合でも、泣かずによく分かっていなかったりする場合、上記のように痛みに鈍感な兆候が見られます。
また、他児が観察している花や虫を踏みつぶしたりするのは、相手との共感性、コミュニケーション能力が育っていないのかもしれません。
もちろん全てのケースが虐待等の兆候に当てはまる訳ではありませんが、こうした児童の「不自然さ」を見つけ出す事が、同時に、「不適切な養育」や「虐待」の早期発見や保護に繋がると言えるでしょう。
不自然な兆候などを見つけた場合の対処法は?
それでは、こうした不自然な「兆候」や「疑い」をもった時、どのように対応すればいいのでしょうか。
まずは園児の事をよく知っている担任や主任保育士、園長先生に相談しましょう。決して一人で判断してはいけません。その後、各種情報を整理・共有した後、市町村や児童相談所に連絡します。
しかし虐待ではないかと思っても、通告を躊躇うことがあるかもしれません。
例えば、保護者との関係悪化への懸念や虐待の確証が得られない、個人のプライバシーに反する等の理由から通告を躊躇う事があるかも知れません。
ただし、虐待の確証が得られない場合であっても、その兆候や疑いがある場合は、児童虐待の防止等に関する法律第6条によって通告を行う義務があります。さらに、こうした通告は守秘義務違反に問われない事も定めてあります。
虐待等の「兆候」に気が付いたとき、動けるのは気づいた本人のみです。
日頃から施設や児童相談所等への連絡方法や連携体制をマニュアル化して、職員に周知する等、対処方法を確立しておく必要があります。
児童虐待の防止等に関する法律
(児童虐待に係る通告)
第6条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。2 前項の規定による通告は、児童福祉法第二十五条第一項の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。
オ 児童の権利擁護(虐待、ネグレクト等)に関する取り組み及び研修がなされているか。
※取り組みがなされている場合【研修の開催時期・研修内容・講師名・参加人数を記載】
※取り組みがなされていない場合【研修開催の予定の有無・研修等を実施しない理由】
ここでは、児童の権利擁護に関する取り組み等について確認されます。
まずは法令を確認しましょう。
特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準
(一般原則)
第3条 特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業者(以下「特定教育・保育施設等」という。)は、良質かつ適切であり、かつ、子どもの保護者の経済的負担の軽減について適切に配慮された内容及び水準の特定教育・保育又は特定地域型保育の提供を行うことにより、全ての子どもが健やかに成長するために適切な環境が等しく確保されることを目指すものでなければならない。(~中略~)
4 特定教育・保育施設等は、当該特定教育・保育施設等を利用する小学校就学前子どもの人権の擁護、虐待の防止等のため、責任者を設置する等必要な体制の整備を行うとともに、その従業者に対し、研修を実施する等の措置を講ずるよう努めなければならない。
ここで保育所等の従業員に、児童の擁護等のために、責任者の設置や虐待防止体制の整備、従業員への研修の実施等を定めてあります。
ここで注意したいのは、ここで定められる「責任者を設置する等~」以下は、次の3つの対策となっています。
- 虐待防止委員会の定期開催及び結果の従業者周知徹底
- 定期的な研修の実施
- 虐待防止のための担当者の配置
法令を確認すると、これら3つは「努力義務」となっていますが、虐待防止の対策の観点から、実施する事が望ましいと言えるでしょう。しかし、保育園の規模や職員数の兼ね合いから、全てを実施するのは難しいかもしれません。その為、何か1つだけでも実施できるよう工夫・対応していく事が必要だと思います。
まとめ
今回の「保育の計画と内容 その⑤」では、虐待等の早期発見、対応、職員研修などについて確認されました。
それらを踏まえて今回の「保育の計画と内容 その⑤」の要点は、次の3つになると言えるでしょう
③児童の権利擁護の取り組み等は、実施する事が望ましい。
次回は、「保育の計画と内容 その⑥」について調べていきます。
備考
ここでは紹介しきれなかった法令を紹介します。
ご参考下さい。
児童虐待の防止等に関する法律
(児童虐待の早期発見等)
第5条 学校、児童福祉施設、病院、都道府県警察、婦人相談所、教育委員会、配偶者暴力相談支援センターその他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士、警察官、婦人相談員その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。
2 前項に規定する者は、児童虐待の予防その他の児童虐待の防止並びに児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に関する国及び地方公共団体の施策に協力するよう努めなければならない。
3 第一項に規定する者は、正当な理由がなく、その職務に関して知り得た児童虐待を受けたと思われる児童に関する秘密を漏らしてはならない。
4 前項の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第二項の規定による国及び地方公共団体の施策に協力するように努める義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。
5 学校及び児童福祉施設は、児童及び保護者に対して、児童虐待の防止のための教育又は啓発に努めなければならない。