第1回の今回は「1:就業規則の整備・運用」について解説・紹介していきます。
まず監査では「就業規則の整備・運用」について、次の5つの項目に沿って調べられます。
(1)就業規則が整備されているか。
(2)就業規則(給与規程を含む)の作成及び変更に当たり、労働組合又は職員の過半数を代表する者の意見を聞いているか。
(3)労働条件について現状と就業規則に差異はないか。
(4)就業規則(給与規程を含む)は、労働基準監督署に届け出がされているか。
※鹿児島県の監査資料では直近の届出年月日まで記入
(5)規則を常時見やすい場所に掲示し、又は備え付けてあるか。また職員に周知されているか。
さらに、ここに関係する書類が、
給与規程
旅費規程
諸規定
就業規則変更届
になります。そして対応する根拠法令が、
(1)・・・・・・労働基準法第89条、90条 労働基準法施行規則第49条
(2)・・・・・・労働基準法第90条
(3)、(4)・・労働基準法第89条、90条
(5)・・・・・・労働基準法第106条
となります。それでは一つずつ確認していきます。
- (1)就業規則は整備しないといけないのか。
- (2)就業規則(給与規程を含む)の作成及び変更にあたり、労働組合又は職員の過半数を代表する者の意見を聞いているか。
- (3)労働条件について現状と就業規則に差異はないか。
- (4)就業規則(給与規程を含む)は、労働基準監督署に届け出がされているか。
- (5)規則を常時見やすい場所に掲示し、又は備え付けてあるか。また職員に周知されているか。
- まとめ
まずは疑問点をおさらいします。
(1)就業規則は整備しないといけないのか。
それでは法令を確認していきましょう。
(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。1 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項2 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)3の2 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項4 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項5 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項6 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項7 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項8 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項9 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項10 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
この法令からも分かるように、ここで就業規則の作成及び提出の義務が定められています。
ここで「10人以上の労働者を使用する」場合、就業規則を作成し行政官庁に提出しなければならないと定められています。ここに就業規則の作成・届出の義務性があります。
さらに就業規則に記載される内容を変更した場合、それが法令に掲げた事項に該当する場合も同様です。続いて「労働基準法第90条」、「労働基準法施行規則第49条」の二つを確認していきます。
(作成の手続)② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
② 法第90条第2項の規定により前項の届出に添付すべき意見を記した書面は、労働者を代表する者の氏名を記載したものでなければならない。
ここでは就業規則の作成や変更の際の注意点が書かれています。
作成・変更の際は「労働組合」又は「労働者の過半数を代表する者」の意見を「聴かなければなら」ず、また届出の際は労働者の代表者名を署名した意見書を添付しなければなりません。ここで注意したいのは「労働組合」や「労働者を代表する者」の意見を「聴かなければならない」のであって、意見を「反映する義務は無い」ということです。
しかし、就業規則は職員の働き方の基準となるものです。
「反映する義務がないのなら、意見を聴くのも適当でいいや」と考えるのではなく、出てきた意見に対しても真摯に対応し、職員に変更したい意図と背景をしっかりと説明しましょう。
意見の反映非反映に係わらず、この職員とのやり取りが曖昧だと、園長と職員の間に大きな溝が生まれる原因となります。
国の法令の変更で緊急に行わないといけない場合を除き、就業規則変更の際は時間と手間をかけて作業することを忘れてはいけません。
また法令には就業規則を整備する条件として「常時10人以上の労働者を使用する使用者」と定めています。これは言い換えると常時10人以下の労働者を使用する使用者は就業規則を整備しなくてもよい、と捉えることもできます。
確かに、従業員が10人以下の場合、就業規則の整備は義務ではありません。厚生労働省でも、従業員が10名以下の場合、就業規則の整備を推奨しているにとどまります。しかし就業規則は会社で働く際の「ルール」です。
ルールが明確にされていないと、労働条件や賃金の支払い等で、さまざまな問題が起こりやすくなります。就業規則に労働条件等を定めることで、リスクを最小化し、職場の環境を整える効果が見込めます。こうした観点からも、従業員の人数に関わらず、就業規則は整備しておくべきでしょう。
(2)就業規則(給与規程を含む)の作成及び変更にあたり、労働組合又は職員の過半数を代表する者の意見を聞いているか。
これは先ほどの、就業規則の作成・変更の際は、労働組合又は労働者の過半数を代表する職員の意見を聴く事の義務性を確認しています。内容は繰り返しになるので省略します。
(3)労働条件について現状と就業規則に差異はないか。
(4)就業規則(給与規程を含む)は、労働基準監督署に届け出がされているか。
(3)は「現在の労働条件と就業規則の内容が一致しているか」、(4)は「作成・変更した就業規則が労働基準監督署に提出されているか」を確認しています。この(4)については(1)で提示した法令を確認すれば分かります。ちなみに就業規則の届け出先である「行政官庁」とは「労働基準監督署」を指します。
(3)については、第89、90条には記されていません。これは県独自の調査であると言えます。しかし、現在の労働条件と就業規則に記載されている内容が異なっているのは大問題です。適切な運営は職員の働き方から。そして働き方は規則から生まれます。ここは必ず守らなければなりません。
(5)規則を常時見やすい場所に掲示し、又は備え付けてあるか。また職員に周知されているか。
これは作成した就業規則等の設置及び周知について確認されます。まずは法令を確認しましょう。
(法令等の周知義務)
第106条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第18条第2項、第24条第1項ただし書、第32条の2第1項、第32条の3第1項、第32条の4第1項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第37条第3項、第38条の2第2項、第38条の3第1項並びに第39条第4項、第6項及び第9項ただし書に規定する協定並びに第38条の4第一項及び同条第5項(第41条の2第3項において準用する場合を含む。)並びに第41条の2第1項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
② 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。
ここでは就業規則やその他労働基準法によって作成・提出を義務付けられた各協定書等を「見やすい場所」に「掲示」や「備え付け」ることが義務づけられています。また場合によっては法令で義務付けられる方法で「周知する」ことになります。
条文を見てもらえれば分かるように、就業規則以外の多くの協定書等にも掲示や周知が義務付けられています。
以下、労働基準法第106条に記載される一例をご紹介します。
第18条(強制貯金)
→使用者が労働者から委託を受けて、労働者の貯蓄金を管理する場合に必要となる協定書
第24条(賃金の支払)
→賃金の支払い時、賃金以外の支払いの場合に必要となる協定書
第32条(労働時間)
→労働時間に関する協定書
等など。。。
他にも、「休憩時間に関する協定書」や「時間外及び休日の労働に関する協定書」などがあります。自分が施設と交わしている協定書や制度について、掲示や周知等の義務性に見落としがないようにしましょう。
まとめ
「就業規則の整備・運用」では、就業規則をはじめとした職員の労働条件等に関する規則や協定書の義務性について書かれていました。その要点は次の3つにあると言えるでしょう。
①10人以上の労働者がいる場合、就業規則をはじめとしたいくつかの規則を作成し、行政官庁(=労働基準監督署)に提出しなければならない。
②提出した諸規則の内容を平行する場合、労働者組合または労働者の過半数を代表する者に意見を聞かなければならない。
③労働者と交わした協定書によっては、周知や掲示等の義務がある。
次回は「人事・労務管理体制」について調べていきます。