保育園では、入所している児童はもちろん、職員の雇用に関する書類や会計状況を「帳簿」として整備しておかなければなりません。特に児童に関する帳簿や書類は、種類も多く、また作成に手間も掛かり非常に大変です。
しかし改めて法令等を見直してみると、削減できる業務がある事に気付きます。
今回は、そうした業務の中でも園児に関する帳簿である指導案の義務性と削減方法について解説していきます。
※注意※
今回のブログ内容はあくまで「業務の改善案」という観点から「指導案を削減することは可能なのか?」について書いています。この業務に付随する児童の育ちや発達、保護者支援、小学校等との連携等は視野に入れておりません。
その点をご理解の上、お読みください。
児童福祉施設における帳簿の考え方
はじめに、社会福祉施設における「帳簿」の考え方について確認してみましょう。児童福祉施設最低基準では次のように定められています。
児童福祉法最低基準
(児童福祉施設に備える帳簿)
第14条 児童福祉施設には、職員、財産、収支及び入所している者の処遇の状況を明らかにする帳簿を整備しておかなければならない。
児童福祉施設とは「保育園」や「幼保連携型こども園」等の児童福祉に関する事業を行う施設の事を指します。ここで定められているように保育園では、働いている職員や施設の財務状況、児童の処遇等に関する帳簿を整備しておかければなりません。
このように法令に義務として定められているのであれば従う他ありませんが、改めて条文を見直すと次の3つの事が分かります。
1:保育園に関する事項(職員、財産、収支状況、児童)の帳簿を整備する。
2:整備する帳簿の在り方については言及されていない。
3:上記以外の帳簿は整備する必要が無い。
ここで重要な事は「2」です。
条文を見直すと、帳簿の整備については定めてありますが、整備する帳簿の在り方について言及されていません。帳簿の在り方、つまり「どのような様式」で「どんな書き方」で「どれくらいの頻度で」等は「施設が決めていくしかない」という事です。
このように書くと「施設の仕事が増える」と思いがちです。
しかし、言い換えると「帳簿の書き方や量を施設で決める」と言いえます。もし、帳簿の書き方を施設で決めた事で、帳簿を作成する負担が減れば、それは良い事ではないでしょうか?
それでは元来、保育園等で整備されてきた「帳簿」、特に児童に関する帳簿には、どのようなものがあるのかを確認していきましょう。
児童処遇にかかる帳簿
保育園で整備する帳簿は多岐に渡ります。その中でも保育士の業務負担になっているのが「児童に関する帳簿」です。主に2つの帳簿があります。
- 全体的な計画
- 指導計画
1つずつ確認していきましょう。
まず、この「全体的な計画」について「保育所保育指針第1章3」では次のように定められています。
保育所保育指針
保育所保育指針第1章3
(1) 全体的な計画の作成
ア 保育所は、1の(2)に示した保育の目標を達成するために、各保育所の保育の方針や目標に基づき、子どもの発達過程を踏まえて、保育の内容が組織的・計画的に構成され、保育所の生活の全体を通して、総合的に展開されるよう、全体的な計画を作成しなければならない。
イ 全体的な計画は、子どもや家庭の状況、地域の実態、保育時間などを考慮し、子どもの育ちに関する長期的見通しをもって適切に作成されなければならない。
ウ 全体的な計画は、保育所保育の全体像を包括的に示すものとし、これに基づく指導計画、保健計画、食育計画等を通じて、各保育所が創意工夫して保育できるよう、作成されなければならない。
ここでは全体的な計画を「保育の目標」を達成する為の「計画」であると言います。さらに「長期的見通し」に立って「子どもや家庭の状況」、「地域の実態」、「保育時間」を考慮しなければなりません。そのようにして完成した全体的な計画は「指導計画」や「保健計画」、「食育計画」等に展開するものであると述べられます。
つまり「全体的な計画」とは、保育目標を達成する為の「園の大まかな方向性」を示したものであると言えます。
次に「指導計画」について調べてみます。
(2) 指導計画の作成
ア 保育所は、全体的な計画に基づき、具体的な保育が適切に展開されるよう、子どもの生活や発達を見通した長期的な指導計画と、それに関連しながら、より具体的な子どもの日々の生活に即した短期的な指導計画を作成しなければならない。
イ 指導計画の作成に当たっては、第2章及びその他の関連する章に示された事項のほか、子ども一人一人の発達過程や状況を十分に踏まえるとともに、次の事項に留意しなければならない。
(ア) 3歳未満児については、一人一人の子どもの生育歴、心身の発達、活動の実態等に即して、個別的な計画を作成すること。
(イ) 3歳以上児については、個の成長と、子ども相互の関係や協同的な活動が促されるよう配慮すること。
(ウ) 異年齢で構成される組やグループでの保育においては、一人一人の子どもの生活や経験、発達過程などを把握し、適切な援助や環境構成ができるよう配慮すること。
ウ 指導計画においては、保育所の生活における子どもの発達過程を見通し、生活の連続性、季節の変化などを考慮し、子どもの実態に即した具体的なねらい及び内容を設定すること。また、具体的なねらいが達成されるよう、子どもの生活する姿や発想を大切にして適切な環境を構成し、子どもが主体的に活動できるようにすること。
エ 一日の生活のリズムや在園時間が異なる子どもが共に過ごすことを踏まえ、活動と休息、緊張感と解放感等の調和を図るよう配慮すること。
オ 午睡は生活のリズムを構成する重要な要素であり、安心して眠ることのできる安全な睡眠環境を確保するとともに、在園時間が異なることや、睡眠時間は子どもの発達の状況や個人によって差があることから、一律とならないよう配慮すること。
カ 長時間にわたる保育については、子どもの発達過程、生活のリズム及び心身の状態に十分配慮して、保育の内容や方法、職員の協力体制、家庭との連携などを指導計画に位置付けること。
キ 障害のある子どもの保育については、一人一人の子どもの発達過程や障害の状態を把握し、適切な環境の下で、障害のある子どもが他の子どもとの生活を通して共に成長できるよう、指導計画の中に位置付けること。また、子どもの状況に応じた保育を実施する観点から、家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成するなど適切な対応を図ること。
「指導計画」とは、「全体的な計画」から「生活」や「発達」を見通した「長期的な指導計画」と、そこから「日々の生活」に細分化した「短期的な指導計画」の2つに分けられると言います。そして「3歳児未満の児童」や「障害のある子ども」については一人一人個別に作成することが定められています。
この「全体的な計画」や「指導計画」の具体的な帳簿は、一般的に次にご紹介するものであると思われます。なお各指導案等の概要の説明は省きます。
全体的な計画(旧:保育過程)
長期的計画→年間保育計画、月案
短期的計画→週案、日案(日誌)
指導計画の作成頻度
ここで気になるのは、長期的にしろ短期的にしろ3歳児未満等にしろ、指導計画の作成頻度です。
お気づきの方もいるかもしれませんが、上記に提示した条文の中には、指導計画の作成頻度は明言されていません。条文には「作成しなければならない」や「作成すること」等、作成の義務については定められています。しかしその「頻度」や、さらには「どのように」作成するのか等の具体的な様式も決まっていません。
つまり、極端な話をすれば「月案(長期的な指導計画)」を2ヵ月に1回、3ヵ月に1回、「週案(短期的な指導計画)」を3週間に1回、「日案(短期的な指導計画)」を3日に1回と隔月、隔週、各日ごとに作成しても何ら法令等に違反していません。
また様式についても指定は無いので、例えば「写真」と「エピソード」を交えたドキュメンテーション等でも問題ないのです。
例えば「3歳児未満の児童」
「3歳児未満の児童」における「個別の計画」について、指針には「一人一人の子どもの生育歴、心身の発達、活動の実態等に即して、個別的な計画を作成すること」とあります。これは具体的に「年間計画」なのか「月案、週案、日案」のどれかなのか、それとも全てなのか、明記されていません。果たしてどれが正解なのでしょうか?
これについて、例えば「保育所保育指針解説(以下、「指針解説」)」では、次のように解説されています。
指導計画は、月ごとに個別の計画を立てることを基本としつつ、子どもの状況や季節の変化などにより、ある程度見通しに幅をもたせ、子どもの実態に即した保育を心がける。
「指針解説」では、指導計画を「月ごと」に立てる計画であると解説しています。
ここで「月ごと」とありますが、これは「毎月」でしょうか、それとも「数ヵ月に1回」でしょうか?
この点についても、やはり何も明記されていません。このように指針解説でも明言を避けた書き方になっています。
この3歳児未満児に関して言えば、「個別の計画」を作成しなければなりませんが、その作成頻度と具体的な記載内容について明言されていません。
つまり「個別の計画」が長期的な指導計画である場合、1ヵ月に1回でも3ヵ月に1回書くだけでも、どちらでもいいのです。また短期的な指導計画である日案や週案の場合も、例えば日案を3日に1回、1週間に1回の割合で書いても問題ありません。
極端な話、日案を書いていれば週案を書く必要はありません。
なぜなら法令で定められているのは「指導計画の作成」のみだからです。
まとめ
このように保育園における帳簿、特に指導案の義務性等について法令から確認してきました。大前提として指導計画は作成しなくてはなりません。
しかし、その作成頻度や作成様式について具体的な内容は書かれていません。
つまり「作成の頻度」と「様式」は施設で決めても問題ないのです。
「保育園における帳簿」
その中でも園児に関する帳簿の作成には多大な手間と時間と労力が必要になります。保育士が多ければ、毎日の勤務時間内に作成を終わらせることが出来るかもしれません。しかし地方の過疎の進んでいる園では万年人手不足の状態です。そうした中で従来通りの指導案作成ではどうしても時間が足りず、結果持ち帰りや残業が横行しています。
指導案作成の改善は、明日から出来る業務改善の1つです。
保育士の業務負担軽減の一端になればと思います。
おまけ
ここで多くの方が疑問に思う事があると思います。
それは「『指針解説』は無視しても良いのか?」という点です。
端的に言えば、指針開設は無視しても問題ありません。
それは厚生労働省発行の『指針解説』を読むと分かります(※現在はHPでも閲覧することが出来ます)
『指針解説』の「序章」では、「指針」の在り方や「指針の改定に至った経緯」等がありますが、そこに「『指針解説』に従わなくてはならない」又は『指針解説』の内容を「保育園の運営について定められたものである」、「保育園の運営の基盤とする」等といった文言がありません。
つまり「指針解説」は、「指針」に対する考え方をまとめた、解説書の1つに過ぎません。
なので私は「指針解説」を、「数多く存在する、「指針」についての考え方を記した参考書であるが、義務性はない」と位置付けています。